コロナ禍で一度は中止になった演目が、続々と幕を開けています。
そんな中、東宝ファンだけではなく宝塚ファンも気にかけていた演目が、発表されました。
2022年版東宝エリザベート、10月より開幕!です。
今回の発表では、タイトルロールの花總まりさんに関して「本公演が四半世紀以上を共に歩んだエリザベート役の集大成となる」とありました。
事実上のファイナル宣言でしょう。
ファイナルと書かないのは、「凱旋公演を後出しする気があるのかな?」という気もします。
とはいえ、東宝は過去に何度か「ファイナル詐欺」をしていますので、信用しきれない部分があるのも事実。
もっともっと花總さんのシシイを見たい筆者としては、これがファイナルではないことを祈ります。
宝塚エリザベートの歴史
「エリザベート」の日本初演が宝塚であることは、宝塚ファンの皆様ならご存じだと思います。
初演は雪組、トートは一路真輝さん、シシイは花總まりさんで、一路さんの退団公演でした。
トップさんの退団公演の役が「死」であることに、反対の声も大きかったそうですが、素晴らしい舞台にそれも消えていったということです。
再演を繰り返す宝塚の看板作品の一つである「エリザベート」が、最初は否定的な見方をされていたというのは、不思議ですね。
「エリザベート」初演に先駆けて、「ロスト・エンジェル」という作品が、涼風真世さん退団公演として上演されています。
「エリザベート」上演のための試験的な作品だったそうで、「エリザベート」の曲も何曲か使われています。
涼風さんは元天使の悪魔、メフィストフェレスを演じられました。
アメリカンな雰囲気の中で、涼風さんの妖しい魅力が素晴らしかったのを覚えています。
「If」の話になりますが、涼風さんがトートを演じられたら、さぞかし妖艶で美しかったことでしょう!
涼風さんが「シシイ」そして「ゾフィ」として、長く「エリザベート」の舞台に立ち続けているのは、何かの縁なのでしょうね。
小池先生のミューズだから、という側面も大きいとは思いますが。
涼風さんとともに東宝版シシイを演じた、元雪組トップ朝海ひかるさんの退団公演は、堕天使ルシファー役でした。
妖しく美しく、重力を感じさせないダンスで観客を魅了しました。
添い遂げ退団となる相手役の舞風りらさんは、盲目の少女役ということで、やはり退団公演に相応しくないと、非難の声が上がりました。
エリザベートという演目には、やはり黄泉の世界を感じさせる妖しい魅力が必要だということでしょうか。
東宝版エリザベート
宝塚での大成功を受けて、「一路さんなら!」と許可が下りたと言われているのが、東宝版エリザベートです。
一路さんは6年間にわたり、主演を務められました。
そう、東宝版ではタイトル通り、「エリザベート」が主役になるのです。
ご存じのとおり宝塚版は、トートが主役に改変されています。
しかし東宝版では「エリザベート」が主役に戻り、ルキーニの役割も大きくなっているように感じます。
宝塚版では、ラストでトートとシシイは結ばれ、二人とも嬉しそうに昇天していきます。
東宝版はトートの胸にシシイが飛び込むところは一緒ですが、その瞬間にトートは「生きているシシイを失った」ことに気づくという、衝撃のラストになっています。
「生きたお前に愛されたいんだ」と歌いながら、「死ねばいい」などと何十年も死に誘い続け、シシイが亡くなったとたん「あ!」と気づく、ちょっとおまぬけさんなトートです。
また東宝版では、昇天のシーンでルキーニが絞首刑の縄で首を吊っているという、ホラーな展開もあります。
史実では絞首刑を望みながら、獄中でベルトで首を吊ったルキーニです。
死後の世界で繰り返される裁判の中、ようやく絞首刑になったルキーニを見ると、これはルキーニの「死に直し」の物語でもあるのだと、感じます。
エリザベートの金字塔・花總まりさん
初演である一路さんの雪組、姿月さんの宙組でシシイを演じた花總まりさんは、日本の「エリザベート」を語る上で、欠かせない方です。
東宝版のキャストとして会見に出られたとき、井上芳雄さんが「日本エリザベート協会会長」と冗談まじりで紹介していたのも、印象深いです。
また、小池先生が「女帝」と言ったのには、驚きました。
宝塚時代は、いい意味では使われていなかった「女帝」です。
「本人の目の前で言う?」と、宝塚ファンの多くが、戦慄したことでしょう。
しかしそれを力業で「尊称」にひっくり返した小池先生と、演技で見事証明して見せた花總さんの凄まじい実力には、感嘆するしかありません。
「鏡の間」のシーンでは、あまりの美しさと存在感に、全身に鳥肌が立ちました。
2019年には「エリザベート」での功績により、オーストリア共和国・有功栄誉金章を受章されています。
まさしく日本が誇るエリザベートですね。
花總さんのシシイを絶賛の井上さんですが、実は姿月さんの宙組エリザベートでは、当日券を求めて並ばれていたとのこと。相手役は花總さんです。
当時は1000days劇場ですね。
数年後、井上自身さんが東宝版ルドルフで鮮烈デビューされるとは、思いもよらなかったことでしょう!
不思議な運命の巡り合わせです。
花總さんは以前から、「エリザベート」からの卒業を匂わせる発言を、されていました。
今回が集大成になるとのこと。
コロナ禍で不安は尽きませんが、素晴らしい舞台を見せてくださると思っています。
そしていつの日か、涼風さんのようにゾフィとして帰ってきてくださることを、願っています。
今後の東宝シシイ
東宝版のシシイを演じられるのは、長く「元トップ男役」だけでした。
しかし東宝ファンにとって、女声キーが合わないことが多い元男役さんが演じることに、反発は大きかったのも事実です。
その慣例を打ち破ったのが、花總さんでした。
花總さんありきでオーディションを受けたという、蘭乃はなさん。蘭乃さんの後を継いだ、愛希れいかさん。
元トップ娘役が帝劇でタイトルロールを務めるという、快挙が続いています。
花總さんが「エリザベート」を降りられた後、また男役に戻るのか、娘役が続行できるのかは、わかりません。
愛希さんの評判がいいのは確かですので、そのまま続ける可能性もあるでしょう。
噂になっている花組エリザベートが実現するなら、星風さんになるのかもしれません。
ネット上では「エリザベートをトップで演じた人しか東宝版シシイになれない」という方もいます。
しかし前述の涼風さんは、日本でのエリザベート上演前に退団。
朝海ひかるさんはルドルフ、しかもWです(正確にはWの樹里咲穂さんが短期間休演したためトリプル)。
退団直後でないとダメ説も、一路さん、涼風さん、朝海さんという前例があります。
涼風さんに至っては、退団後10年以上たっての登板です。
例えば「だいきほ」でWということも、可能なわけですね。
さいごに
花總さんの集大成の幕が上がるのが、嬉しいような寂しいような、不思議な気分です。
「辞めないで!」と心の隅で願いつつ、花總さんの熱演をお待ちしています。
そして宝塚版のガラへの出演だけは続けてくれることを、願わずにはいられません。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。