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月組博多座公演『川霧の橋』語り継がれる作品に

観劇レポ

宝塚歌劇団月組博多座公演『川霧の橋』が素晴らしかったので、この感動をお届けしたく思います。

「川霧の橋」は、1990年に月組で初演。当時のトップコンビ、剣幸さん、こだま愛さんのさよなら公演として柴田侑宏先生が山本周五郎の小説を原案に描いた作品です。

「芝居の月組」と称されただけあって、飾り気なく芝居を存分に味わえます。

公演プログラムでの剣さんのメッセージでは、この作品で、というのを聞いた時に、最初は華やかな衣装がなく、情感たっぷりの人情ドラマに嘘はつけない、と悩んだそうです。

しかし、大成功だったことは言うまでもありません。

今まで、たくさんの方が「川霧の橋」を演じたいというのを耳にしましたが、柴田先生は、どの方に許可するのか、というのが悩ましかったようで、先生のご存命中は実現せず。

この度、やっと再演の運びとなりました。

舞台は江戸の茅町。

今の浅草橋辺りです。

大工の棟梁・杉田屋の後継者を幸次郎だと披露したところから、運命が動いていきます。

全て小さな行き違いから本当は好き合っている同士を引き話す物語で、お芝居ひとつにかかっている難しい作品だと感じました。

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月城かなとさん

主人公・幸次郎役はこの度新トップスターに就任の月城かなとさん。

いなせなのに、色恋にはからっきし、というちょっとぶきっちょな若棟梁を好演。

そのぶきっちょさがあだとなり、お光ちゃんに好きだと伝えられず、離れ離れとなってしまう運命がもどかしかったです。

腕はとても良いし、仲間からの信用も厚い好青年なのに、と。

しかし、お光への愛情、恋慕を江戸の大火という大きな出来事にも負けず、終始貫く姿が格好良かったです。

観劇した日は初演の剣さん、こだまさんが客席でご覧になっていたので、月城さんの演技も熱を帯び、太鼓の場面も迫力が増していました。

また、ラストでお光ちゃんの襟をつかむ際にも一層熱があり、手をつないではけるかと思いきや、肩を抱き寄せていました。

端正な容姿ですが、こういった感情を込める芝居も得意で、相手役への愛情をとことん見せるのも上手い月城さん。

また、新たな面を見せてもらいました。

海乃美月さん

お光役は新たにトップ娘役に就任の海乃美月さん。

幸次郎のことを悪くは思っていけれど、まだ幼い彼女には清吉からの告白を恋だと思ってしまったことが、とても悲しく思えました。

幸次郎がお土産を渡した際も、どんな意味なのかもよくわかっていないのが伝わる演技。

「こんちは!」というのも幼さが出ていて上手いです。

清吉のことだけではなく、昔に臥せっていたお光の母に杉田屋が、悪気なくかけた言葉で、お光の祖父・源六が縁談を断ったり、火事で助かったのに、記憶を失くしたり、清吉と所帯を持ってみれば……、という連続で、見ていて辛くなりますが、健気な姿を見ると応援したくなる演技でした。

火事の前後、記憶が戻った後のお光の成長が感じられ、上手いと感心しました。

月城さんとは「THE LAST PARTY」「ダル・レークの恋」で相手役を演じ、息もぴったり。

情感たっぷりのお芝居で、今後のどんな役を見られるのか楽しみです。

鳳月杏さん

半次役は鳳月杏さん。

初演を涼風真世さんが演じただけあり、歌のナンバーも聞かせどころが多く、鳳月さんも負けずに良い声を響かせました。

仲間内で若棟梁に推された幸次郎に腕も人柄も信頼し、助ける姿が清々しいです。

そして相模屋のお嬢さん・お組への一途な思いがひしひしと伝わりました。

抑えた演技でラスト決意を秘めた眼差しは熱く胸に迫ります。

もはや月組にいなくてはならない人材。これからも期待しています。

暁千星さん

清吉役は暁千星さん。

初演で天海祐希さんが演じた悪い男。

幸次郎への嫉妬から、お光と約束をし、二人の運命を迷わせる張本人。

大火を逃れながらも、働かずに暮らそうという悪党ぶりを演じました。

しかし、世の中の不条理に心ひねくれる様子はどこか哀愁があり、そこは暁さんの愛嬌のなせる業です。

3番手となり、活躍の場も多くなりましたがじっくり育ってほしいです。

その他のキャスト

源六役の光月るうさんの枯れ具合が上手く、お甲役の麗泉里さんの気風の良さが目を引きました。

お組役の天紫珠李さんは悲しい運命に翻弄されながらも生き抜く姿がいじらしかったです。

およし役の結愛かれんさんは体調の悪い演技が細かく、感心。

他にも、月組らしい芸達者がいっぱい。初演に出演の京三紗さん、梨花ますみさんも舞台を助け流石です。

そしてラストのカゲソロに初演でお甲を演じた舞希彩さんの実娘・咲彩いちごさんというのも憎い演出です。

杉田屋の仲間を初演では幸次郎を60期の剣さん、半次を67期の涼風さん、清吉を73期の天海さんが演じましたが、今回はそれぞれ、95期の月城さん、92期の鳳月さん、98期の暁さんが演じ、これはこれでバランスの良さを感じました。

月組が一体となり作り上げたこの作品。初演と共に語り継がれるに違いありません。