宝塚月組にて、11月18日から梅田芸術劇場メインホールを皮切りにスタートする全国ツアー公演『ブラック・ジャック 危険な賭け/FULL SWING!』。
近年の全国ツアーと言えば宝塚での古き良き作品を再演するのが恒例となっています。
初演を観ている人は新しい演出に変わっている部分を発見したり、初見の人は旧作にも名作がたくさんあることを知ったりできる、大変いい機会だと思います。
今回の再演に選ばれた『ブラック・ジャック 危険な賭け』もかつての花組ファンにとっては「大好きな作品」に挙げる人が多いでしょう。
では、『ブラック・ジャック 危険な賭け』とは一体どこが見どころなのでしょう。
初演を振り返ってご紹介していきましょう!
宝塚×手塚治虫の絆
手塚治虫といえば、宝塚大劇場のすぐ近くに「手塚治虫記念館」が建っているので、宝塚との繋がりが深いことは有名です。
宝塚歌劇団の創立は1914年。手塚治虫が生まれたのは1928年。
手塚治虫は5歳の時に宝塚に引越してきて、今や宝塚市の名誉市民にもなっています。
つまり、宝塚の草創期からずっと歌劇団を見つめてきた手塚治虫。
当時の宝塚は民家もほとんどない田舎で、そこに小林一三が阪急電鉄を引いてきて大劇場などの行楽施設を作りました。
広大な田園の中、劇場周辺エリアだけが妙に華やかという独特の風景も、手塚治虫の作風に大きな影響を与えたと言われます。
手塚治虫の自宅付近にも多くのタカラジェンヌが住んでいたらしく、交流もたくさんあったそうですよ。
日本を代表する天才漫画家となった手塚治虫の功績を称えるため、1994年、手塚治虫の没後5年のタイミングで記念館を開館します。
その記念館オープンを祝うために作られた作品が『ブラック・ジャック 危険な賭け』とショー『火の鳥』でした。
難易度の高い舞台化に挑んだ花組生
手塚治虫自身、戦時中に医学部に進学した経験もあってか、「人の命を扱う」というテーマを考えていたのでしょう。
『ブラックジャック』は現在にも続く「医療漫画」の先駆けとなりました。
主人公・ブラックジャックは無免許ながら天才的な腕を持つ外科医で、幼少期に遭った爆発事故で皮膚移植手術を受け、顔面の半分の皮膚の色が異なっています。
おませな女の子、ピノコはゆるキャラ的な存在で、自称「ブラックジャックのお嫁さん」。
ブラックジャックが高難度の手術によって助けた少女です。
この2人が主要キャストという時点でもう「どうやってタカラジェンヌが演じるの…?」と思いますよね(^^;)
ブラックジャックは顔に大きな傷と異色の皮膚で、ピノコは少女。
もちろん宝塚でも子役はたくさん出てきますが、あくまで脇役です。
主要キャストともなれば下級生が演じるのにはハードルが高く、キャスティングはきっと難しかったと思います。
その都合もあってか、『ブラック・ジャック 危険な賭け』は宝塚のオリジナルストーリーになっています。
演出は正塚晴彦先生で、ニヒルな男性像やハードボイルドが得意な先生なので、作品の雰囲気とも合っていたと思います。
命を扱うとてもシリアスなお話かと思いきや、意外に笑えるところもたくさんあります。
正塚先生の珠玉のコメディー『メランコリック・ジゴロ』もセンスのいい笑いが散りばめられていましたので、正塚先生の真骨頂は実はコメディーなのかもしれないと感じます。
過去のブラックジャック公演をおさらい
初演は先ほどお伝えしたように、1994年の花組です。
そして今回が再演…かと思いきや、2013年の雪組別箱公演でも上演されています。
その際の作品名は『ブラック・ジャック 許されざる者への挽歌』。
雪組・未涼亜希(みすず あき)さん主演のドラマシティ/日本青年館公演です。
ストーリーは全く別物で、こちらも正塚先生オリジナルとなります。
また、2003年のTCAスペシャル(タカラヅカスペシャルの前身)でも、少しだけブラックジャックを再現しました。
そちらも含めて、配役表を作ってみました。
初演の花組の大劇場と東京でキャストが違うのは、ロンドン公演に選抜されたメンバーが抜けたため、東京では役替わりとなりました。
近年では大劇場と東京で主演も含めて配役が変わる、というイレギュラーがほとんど無いので、これもまた面白そうですよね。
ブラックジャックの宝塚化で最も難しいのは、やはり「主役にロマンスが無い部分」です。
ゆえに、宝塚には欠かせない「ヒロイン」と言っていい枠が少々難しく…
ということで、表ではヒロイン枠を(相当)とさせていただきました。
2013年の雪組バージョンではなんとピノコがヒロイン相当になります。
漫画の設定では16歳ということですが、やはりキャラ的に子役に属すると思うので…「ヒロイン」と呼ぶのは少々無理がありますが(^^;)
顔に傷があるブラックジャックという役もイメージに合う男役さんが少ないですし、このヒロイン不在問題も含め、簡単に「再演!」とはいかないのがまたブラックジャックの良さかもしれません。
今回の月組バージョンでは、代々、のちにスターとなっていった生徒さんがキャスティングされてきた「ブラックジャックの影」役の一輝翔琉(いちき かける)さんや、ピノコ役の美海そら(みうみ そら)さんにも大注目ですね。
なかなか再演の叶わない貴重な『ブラック・ジャック 危険な賭け』、その目で見られる貴重な機会を得られた皆さん。
ぜひ目に焼き付けてきてくださいね!