宝塚歌劇団月組、鳳月 杏(ほうづき あん)さん主演『ELPIDIO(エルピディイオ)~希望という名の男~』が11月21日からKAAT神奈川芸術劇場、12月3日から梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて行われます。
92期生の鳳月 杏さんは今年で入団17年目となり、男役として充実期を迎えています。
主演作はこの『ELPIDIO』で3作目となりますので決して多いほうではありませんが、どんな作品でも鳳月さんの高い実力で「名作」と言わしめてしまいます。
さて、今回の『ELPIDIO』は一体どんな作品になりそうなのか…担当演出家である謝珠栄(しゃ たまえ)先生のこれまでの作品を紐解きながら、初日への期待を高めていきましょう!
異色の演出家、謝珠栄
謝珠栄先生は、元花組の男役さんでした。当時の芸名は隼あみり(はやぶさ あみり)。
57期生の首席として入団し、同期生にはなんと現役生がお2人!
専科の汝鳥 伶(なとり れい)さんと京 三紗(きょう みさ)さんです。2022年でなんと研51!!!
半世紀以上をタカラジェンヌとして生きている「宝塚の重鎮」です!
そして謝珠栄先生という演出家まで輩出してるんですから、すごい期ですよね。
謝珠栄先生は現役当時、花組でダンサーとして活躍しますが、たった4年で退団されてしまいます。
というのも、きっと「自分はプレイヤーではなくてクリエイティブな仕事がしたい」という夢をお持ちになったのでしょう。
退団後すぐにニューヨークに留学して本場の舞台芸術などを学び、3年後には振付家としてデビューします。
劇団四季などのオファーも多く受け、一気に売れっ子振付家となり、今やご自身主催の劇団もお持ちです。
ちなみに、お名前を見て分かるように、謝珠栄先生は中国系のルーツをお持ちで、お父様は華僑の元リーダーで経済界でも大きな影響力を持つ方です。
弟さんはシャ乱Qのキーボード、たいせいさんです。
歌劇団の元生徒という振付家は数名いらっしゃいますが、演出も行って自分の劇団も持っている、というほどの人は謝珠栄先生くらいですね。
しかも、歌劇団座付きの演出家ではなく、一応外部の演出家ということになります。
謝先生以外で外部の演出家作品が宝塚で上演されることはほとんどないので、いろいろな意味で異色の演出家と言えそうです。
柴田作品に謝珠栄あり!
2007年からは謝珠栄先生が脚本・演出・振付までこなす作品を発表されていますが、それまでは柴田侑宏(しばた ゆきひろ)先生との共作がとても多いですね。
柴田侑宏 脚本/謝珠栄 演出・振付作品
- 『黒い瞳』
- 『激情』
- 『凱旋門』
- 『ガラスの風景』
- 『黒豹の如く』
- 『ヴェネチアの紋章』
どれも再演が繰り返されている人気作品ばかりです!
柴田先生はどうにもコントロールできない激しい愛情のもつれを叙情的に描くのが特長で、その世界観を謝先生が前衛的に視覚化する、という見事なタッグになっています。
この数十年、柴田先生は視力がかなり落ちてしまっているそうなので、謝先生が柴田先生の「目」となっているのでしょうね。
それだけ、重鎮の柴田先生が謝先生に信頼を寄せているということでしょう。
これらの作品の中でも特に印象的だったのは、『激情』での演出です。
2階席から見ると十字架の形になっているセットの上で主人公・ホセが神に祈りを捧げたり、全て失ったホセが物語の最後、大階段の上に立つカルメンに手を伸ばして昇っていきますが、その階段には大きなシフォン生地がふんだんに広げられ、本当に天国のような情景でした。
謝珠栄先生の演出には他の演出家には無い色彩があり、一目で「ああ、謝先生作品だ!」と分かる個性があります。
アジア中心だった謝珠栄が初めてスペインを描く!
謝珠栄先生は柴田先生とのタッグで実力を高め、2007年にはついに宝塚歌劇でオリジナル作品の発表となりました。
- 2007年 月組『MAHOROBA』-遥か彼方YAMATO-
- 2020年 星組『眩曜の谷~舞い降りた新星~』
どちらの作品もアジアを舞台にした物語で、宝塚以外の舞台で発表する作品も題材はアジアであることが多い謝作品。
華僑である謝先生のルーツからヒントを得たのでしょうか。
そして今回は、スペイン!
謝先生が西洋モノを作るというだけでもかなり期待度が上がります!
しかも、どうやら鳳月 杏さんは2役を演じるようです。
例えば、『バロンの末裔』でも主役は2役を演じますが、その演じ分けは作品の大きな見どころとなります。
『ELPIDIO』は、軍人貴族、アルバレス侯爵と、彼に瓜二つゆえに替え玉になれと命じられるロレンシオの2役を鳳月 杏さんが演じます。
ポスターには2人の鳳月 杏さんがいて、髪型や表情もまったく別人のようです。
これは芸達者である鳳月 杏さんだからこそできる難役になるのではないか、と今から期待値が上がっています!
スペインは今でこそ観光にも行ける平和な国ですが、つい数十年前までは何百年もの争いの歴史があります。
この『ELPIDIO』の時代も、平和を求めて多くの血が流されていた時代です。
その混乱の中でロレンシオはどのように愛を手に入れるのか、副題にもある「希望という名の男」というのもどういう意味なのでしょう。
今回、ヒロインとなる彩みちる(いろどり みちる)さんも人妻役ですので、きっとかなり大人っぽいロマンスとなるでしょう。
謝先生の初の西洋モノ、2役を演じ分ける鳳月 杏さん、人妻の彩みちるさん。
これだけでももうかなりの見どころと言えそうです。初日がとても楽しみですね!