宝塚歌劇団星組。
愛月ひかる(あいづきひかる)さんの衝撃の退団発表が行われ、退団公演となる『柳生忍法帖/モアー・ダンディズム!』が早くも始まります。
退団会見は基本的にはトップコンビのみ行われるものですが、愛月さんの退団会見にあたるものが先日行われ、異例の退団であることを改めて思わせましたね。
愛月さんはその会見では「本当に今回の2作品が最後の公演でよかった」と話していらっしゃり、芦名銅伯という「ラスボス」は、タカラジェンヌが演じるにはハードルの高すぎる難役をこれまで数々演じこなしてきた愛月さんだからこそ。
そんな『柳生忍法帖』という物語は一体どのような物語なのでしょうか?
宝塚歌劇団公式ホームページに分かりやすいあらすじが載っていますので、ここでは「柳生十兵衛」という歴史上の人物に焦点を当ててみたいと思います。
眼帯姿が印象的な天才剣士
柳生十兵衛といえば、小説にしろ映画にしろドラマにしろ、これまでに非常に数多く作品化されてきた大人気の人物。
そのビジュアルはたいてい左目に黒い眼帯をつけてボサボサのちょんまげを結った姿。
今回の星組公演でも礼さんはまさにその通りのビジュアルとなっています。
歴史上の人物で黒い眼帯といえば、伊達政宗と柳生十兵衛がツートップで有名どころですね。
しかし、実際に片目が失明していた伊達政宗とは違って柳生十兵衛のほうはあくまで「イメージ」であり、当時の肖像画を見ると実際のところは隻眼ではなかったようです。
逸話として「剣術修行中に怪我をした」というような話は伝わっているようですが、確証のある話ではないそうな。
「片目が見えないのに天才的な剣術を持つ」という設定のほうが物語のヒーローとしてキャラが立つので、「柳生十兵衛=眼帯」が定番となっていったようですね。
柳生一族は歴史上の随所に存在あり
柳生十兵衛の父である、柳生宗矩(やぎゅうむねのり)(配役:朝水りょうさん)が柳生藩の初代藩主で、十兵衛が2代目藩主となります。
どちらかといえば父の宗矩のほうが剣術家としても政治家としても数々の偉業を成し遂げていますが、十兵衛にはミステリアスな逸話ばかりが残されているため、後世の作家たちのイマジネーションが広がっていったように思います。
柳生の名前が最初に確認できるのは、先日幕を降ろした月組公演『桜嵐記』で取り扱った後醍醐天皇の時代です。
後醍醐天皇をトップとする南朝と、足利尊氏を実質上のトップとする北朝の戦争をしていた南北朝時代に、柳生氏は南朝の後醍醐天皇側として参戦。珠城りょうさん演じた楠木正行と同じ軍ということですね。
『桜嵐記』で美しく散っていった楠木正行と同じように柳生氏も敗北はしますが生き延び、その後も戦国時代、江戸時代と日本の中心を担う重要な家柄として活躍し続けます。
記録に残っている柳生十兵衛の生涯
剣豪として名高い柳生家の長男として生まれた十兵衛。
父・宗矩は3代将軍・徳川家光の軍師として側近についていたので、その息子である十兵衛も13歳の時に家光(十兵衛の3歳年上)の小姓として仕えます。
幼馴染のように育った2人ですが、十兵衛が20歳の時になんらかの理由で家光の逆鱗に触れ、謹慎を命じられます。その謹慎も本当は1年ほどで解けたらしいのですが、十兵衛は11年も帰ってきませんでした。
その間、どこで何をしていたかというと、剣術の修行に出ていたとか、全国行脚して各地の山賊などを成敗して歩いていたとか、実は家光の特命を受けて忍者としてスパイ活動をしていたとか、いろいろな説がありますがどれも定かではありません。
この奔放なキャラクターが人気を呼び、今回の『柳生忍法帖』での柳生十兵衛の人物像に繋がっていったようです。
そしてようやく江戸に戻ってきて将軍に再び仕えはじめ、その間に柳生家に口伝で伝わっていた剣術法を書物にまとめたり、人間としても温厚になり政治家としてこれから…という時に、鷹狩りに出かけた際に謎の死を遂げ、43歳の若さで生涯を終えます。
柳生十兵衛のおもしろエピソードいろいろ
正式な文書に十兵衛の人となりや生き様が確認できるものはあまり残っていないのですが、あくまで「ウワサ」レベルで伝わっている面白いエピソードはいろいろあります。
酒癖の悪い問題人物!
若い頃の十兵衛はずいぶんと酒癖が悪く、呑んでは大暴れして周囲を大変困らせていたそうです。
武士道の師匠でもある沢庵和尚(配役:天寿光希さん)から「酒に関しては気を付けるように」とたしなめられていたり、父・宗矩もこの酒癖の悪い長男に家督を継がせる心配があったのか、当時では珍しく十兵衛の弟と半分ずつ家督を相続させたようです。
その強さを表す伝説がたくさん
十兵衛には、「天才剣士」に相応しい伝説がたくさん残されています。
- ならず者に突如斬りかかられた際に、目にもとまらぬ速さでその男の懐に入って髭を捕まえ、顔に唾を吐いた
- 大名に召し抱えられている武士と木刀で試合をした際に十兵衛の動きがあまりに速く、相手が自分の負けに気付かず「自分の負けではない」と主張し、「それなら真剣でやってみよう」と言い、その武士を斬り倒してしまった
現代に残る十兵衛の存在の証
11年ぶりに江戸へ出仕する際に柳生の里に1本の杉を植えたそうで、現在の奈良県柳生町にその「十兵衛杉」が残っているそうです。
礼真琴さんならではの十兵衛に期待!
今回の『柳生忍法帖』は1962年に連載が開始された古い小説が原作となっていますが、登場人物たちの濃すぎるキャラクター設定はもう笑ってしまうほど。
愛月さん演じる芦名銅伯をはじめとする悪役が多く登場しますので、宝塚にしてはかなりハードな物語のはずなんですが…(原作の惨殺シーンや暴行シーンは読んでいて気持ち悪くなるほどです…要注意)
そのキャラ立ちしている悪役に負けないよう、礼さんがどのような役作りをしてくるのか大変楽しみです。
また、舞空 瞳さん演じる「ゆら」も正統派のヒロインではなく、かなり悪役に近い存在なので、あの可愛い可愛い舞空さんがどんなヒロイン像を作ってくるのか興味深いですね。