月組新トップコンビのお披露目公演が行われ、お芝居は「今夜、ロマンス劇場で」を上演。
お披露目、そして2022年の幕開けとして相応しい作品でしたので、感想をお届け致します。
原作は綾瀬はるかさん、坂口健太郎主演で2018年に公開された邦画「今夜、ロマンス劇場で」。
新しい月組のスタートに似合った良作で、上質なコメディであり、ラブストーリーに仕上がっていて、心に響きました。
あんなに笑ったのに、最後には泣かせられるとは、と良い意味で裏切られました。
主人公・健司は現在助監督ですが映画監督を目指して働いています。
映画好きな彼は映画館「ロマンス劇場」で、古い映画を繰り返し見て、ヒロイン・美雪に恋しています。
毎日のように通っていた健司ですが、ある時映画館の館主からこの映画のフィルムを売ると伝えられます。
もう見られない、美雪に会えない、と悲しむ健司でしたが、その時……。
憧れて毎日のように見ていた女優が目の前に飛び出して来たら?と少々突飛ではありますが、宝塚ファンだったら健司の気持ちが手に取るようにわかるのではないでしょうか?
しかし、映画の中のお姫様、現実社会では映画の撮影所や町中でも皆を振り回し、健司にも迷惑が掛かります。
でも振り回される健司や、一番被害を被る俊藤の場面が面白く、真面目にやっているのに大騒動なのが、コメディの基本に忠実で流石芝居の月組、と思いました。
演者が大真面目に振り切ってやるからこそ、面白みが生まれる、というのを実感。
冒頭、現代のパートに当たる場面でで看護師たちが入院している健司の噂をし、そこで転んだ健司を身内らしき女性が助けないのを良く思わない話をしているのですが、見終えると、合点がいき涙が出ます。
笑いから涙まで、心の動きが激しくなる作品です。
月城かなとさん
主人公・牧野健司を演じたのは月城かなとさん。
最近演じた「ダル・レークの恋」でのラッチマン、「川霧の橋」での幸次郎とは全く違う役。
いつか自分で映画を作りたいと夢見ながら働き、映画館に通っていますが、その中のヒロイン・美雪に恋して、目の前に現れた時には驚きつつも、世の中を知らない彼女の面倒をみます。
振り回されているけれど美雪を好きで仕方がないことが見ていてわかりますね。
映画を愛し、美雪と自分を題材に映画を撮る、という楽しいひとときも、彼の感情がよく伝わってきます。
映画から飛び出してきた美雪には制約があるのですが、そんなこともものともせずに愛しぬいた生き様がラスト、観客の頬に涙を伝わらせます。
病室で横たわり、美雪の言葉に応えるお芝居も健司の人となりが出ていて、名演技。
純粋な面が際立ち、いつもとは違った月城さんを見ることが出来る作品です。
ヒロイン・美雪は海乃美月さん
映画の中から飛び出してきて、現実の世界のことは何もわからず、天真爛漫なお姫様がよく似合いますね。
どちらかというと硬質な印象がありますが、ドレス姿もよく映えて、素敵です。
行く先行く先で騒動になってしまうのですが、本人が悪びれていないのがまた可笑しく、お姫様なんだな、と納得です。
自分のことを思ってくれる健司に、とまどいながらも恋していく様子は可憐で健気に映りました。
スタイルが良く、衣装が似合っていてとても綺麗な海乃さん。満を持してトップ娘役に就任し、ますます楽しみです。
俊藤龍之介役は鳳月杏さん
舞台化が決まり、配役が発表される前から誰が演じるのか話題になっていた印象的な役です。
昭和のスターを大袈裟に、しかし丁寧に匙加減をしながら演じたのは流石、鳳月さん。
結構ひどい目に遭いながらも、ポジティブなところが愛すべきキャラになっていました。
考えなしに演じたら逆に笑えない役ですがそうならないのが素晴らしいです。
新生月組に必要なスターだと改めて感じました。
大蛇丸役は暁千星さん
映画の中で美雪に求愛する隣国の王子です。
若干しつこくて指の動きが奇妙ですが、健司のアパートに現れたり、何となく愛嬌があるのが暁さんにぴったり。
この後、星組への組替えが予定されていますが月組で過ごし、経験したものはきっと糧になっているでしょう。
更なる飛躍が期待されます。
他にも個性的なキャラクターが。
風間柚乃さん
健司の助監督仲間・山中を演じる風間柚乃さんは、ちょっとちゃっかり者のようですが、健司と切磋琢磨する役で、この前まで新人公演に出演していたとは思えない芝居巧者。
白雪さち花さん
女優・萩京子役の白雪さち花さんも弾けっぷりが気持ち良いくらいで、シリアスな役もコミカルな役もこなすことに感心します。
大蛇丸の従者、雨霧役の天紫珠李さん、狭霧役の礼華はるさんも個性豊かに演じ、若手の底力を感じました。
成瀬塔子役の彩みちるさんは雪組から組替え。
「CITY HUNTER」が記憶に新しいですが、新しい一面を見ました。
層の厚い娘役陣の中でまた面白くなりそうです。
良い幕開けとなった月組公演。
大劇場公演を止まることなく全日程を完走できたことも幸先が良いこの作品。
是非とも東京公演も無事に公演出来ますようお祈りいたします。