宝塚歌劇団星組の新人公演で、稀惺かずとさんが再び主演を務めると知ったとき、正直「やっぱり彼女だったか」と納得と同時に、胸が熱くなりました。
長年宝塚を見続けてきて、新人公演の抜擢にはいつもその時代の空気や劇団の思いが滲むものですが、今回の発表はとりわけ重みがありました。
その理由は、公演が礼真琴さんの退団作『阿修羅城の瞳』であること。
そして何より、稀惺さんがカーテンコールで語ったあの一言──「自分のさだめを全うできるのか」──があまりにも印象的だったからです。
あの瞬間、劇場にいた多くの方が息を呑んだのではないでしょうか。私もその一人です。
この言葉は、おそらく簡単に出てきたものではありません。トップスター・礼真琴さんという大きな存在の背中を見つめ、その魂に触れるような日々の中で、稀惺さんが感じた重圧と覚悟。
それを真っ直ぐに言葉にした姿に、私は心を打たれました。
宝塚には「さだめ」という言葉がとてもよく似合うと思います。
運命ではなく、宿命とも少し違う、「自ら選び取った人生」というような意味が込められているように感じます。
礼さんから受け取ったバトンをどう走り抜けるのか、自分に課されたその“さだめ”を真摯に見つめる稀惺さんの姿勢は、まさに宝塚の精神そのもののように思えました。
舞台上での稀惺さんは、堂々としていて、若手とは思えない貫禄を放っていました。
特に和装の立ち姿、あの目線の強さ。演技や歌の技術もさることながら、「舞台に命を懸けている人の目」をしていたのです。
宝塚はただの夢物語ではなく、生き様を舞台で見せてくれる場所です。
だからこそ、稀惺かずとという存在が、いま多くのファンの心を掴んで離さないのだと思います。
星組の未来は、きっと明るい。彼がその中心にいる限り──そう思わせてくれた新人公演でした。