宝塚雪組の大劇場公演『蒼穹の昴』が10月1日から始まります。
浅田次郎の代表作とも言える『蒼穹の昴』の初の舞台化。
そして、雪組トップ娘役・朝月希和(あさづき きわ)さんの退団公演として注目を集めています。
中国史は人物名が覚えにくかったり、人物相関図が入り組んでいたりしてちょっと不安…という方のために、予習としてキーワード解説をしています。
前編では「西太后とはどんな人物か」「科挙とは何か」を解説しました。
後編は、彩風咲奈(あやかぜ さきな)さん演じる梁文秀(リァン・ウェンシウ)、朝美 絢(あさみ じゅん)さん演じる李春児(リィ・チュンル)に繋がるキーワードを解説します。
朝美 絢さん演じる李春児は『宦官』
『蒼穹の昴』原作での主人公はどちらかといえば、朝美 絢さん演じる春児(チュンル)のほうです。
春児(チュンル)の職業は『宦官(かんがん)』。
宦官という制度は古代や中世時代の各国にあった制度ですが、発祥は中国です。
宙組の真風涼帆さんのお披露目公演『天は赤い河のほとり』にも「ウルヒ」という宦官(星条海斗)が出ていましたね。
『天は赤い河~』は紀元前1200年頃のトルコですので、その時代にすでに宦官という制度が世界中に広がっていたということです。
宦官は大臣や役人たちと同じように政治や王族を助けるのが仕事のひとつではありますが、最も大きな違いは「子孫を残せない」ことです。
子孫を残せない、ということは、側近として仕えている王妃や側室との間に子供を作られてしまう可能性が無い、ということです。
それだけのことをして皇帝に「忠誠心」を示していて、更に科挙合格者には無い政治的センスや外交手腕、宗教知識を持っている職業です。
宦官になれば科挙合格者のように国で働かせてもらえるということで、自ら志願して自分の手で去勢を施す人も少なくなかったとか…。
まさに春児(チュンル)もその一人です。
貧しい家族を助けようと、宦官になろうと決意して自分の手で去勢をします。
その辺にある刃物を使ってまともな消毒や処理もしないので、宦官志望の3割程度は感染症などになって死んでしまったそうです。
科挙試験と共に凄まじい制度ではありますが、生まれた家で人生が決まってしまう身分制度しか無い国と比べれば、平等で革新的とも言えます。
中国の宝塚!『京劇』
朝美 絢さん演じる春児(チュンル)は、宦官でもありますが、天才的な京劇役者でもあります。
その素晴らしい才能に惚れ込んだ故に西太后が側近として重用した、という存在です。
国のトップでさえも京劇をここまで愛するということは、当時の中国において京劇がどれほど重要な文化であったかが分かります。
京劇は宝塚とよく似ていますので、宝塚ファンなら簡単に想像することができますよね。
実際に宝塚のショーでも京劇風の場面を採り入れている作品は多くあります。
京劇は18世紀に北京で誕生しました。
当時、文字が読めなかった平民たちにも分かりやすいように構成された舞台で、三国志や西遊記などのよく知られているストーリーが選ばれています。
華やかな衣装・メイクで飾り、歌、セリフ、舞踊、立ち回りなどで物語を進める音楽劇で、海外では「北京オペラ」と呼ばれています。
中国と言えば「雑技団」なんかも有名ですが、京劇ではあのような超人的な身体の使い方もされます。
日本で言う「大道芸」のような技もたくさん入りますので、サーカスの要素もありますね。
北京には宝塚音楽学校のような京劇役者養成学校もありました。
「中央戯劇学院(ちゅうおうぎげきがくいん)」というその養成所はこんなすごいメンバーを輩出しています!
- ジャッキー・チェン
- サモハン・キンポー
- ユン・ピョウ
- チャン・ツィイー
京劇は毛沢東による文化大革命により弾圧され、中央戯劇学院所属の役者たちは活躍の場を「カンフー映画」にシフトチェンジしていきます。
誰でも知っているカンフー映画のスターたちも京劇学校出身だったとは驚きですね!
西太后が春児(チュンル)を寵愛したように、清の時代の天才的な京劇役者は国のトップからお呼びがかかるほどだったんですね。
『蒼穹の昴』には、朝美 絢さんの京劇シーンも入るのでしょうか?!
「兄弟の契り」を交わした2人が敵対してしまう『蒼穹の昴』
清の国が迷走の末に弱体化するとき、内部では一体どのような動きがあったのか、国を動かしていた人々はどんな思いだったのか。
それをドラマチックに描いた『蒼穹の昴』。
浅田次郎の原作は、彩風咲奈さん演じる文秀(ウェンシウ)と、朝美 絢さん演じる春児(チュンル)の絆を中心に描いています。
血の繋がった本当の兄弟ではありませんが、幼い頃に「義兄弟」の契りを交わした仲です。
その2人が共に国家に仕えるようになり、西太后チームvs光諸帝チームに所属が分かれ、敵対してしまうお話です。
しかし今回はあくまで宝塚版になりますので、ラブストーリー要素が中心になってくるでしょう。
朝月希和さん演じる玲玲(リンリン)は、原作ではあまり目立ったキャラクターではなく、むしろ夢白あや(ゆめしろ あや)さん演じるミセス・チャンのほうがヒロイン寄りという印象です。
それを敢えてリンリンをヒロインにした原田先生の思惑も気になりますよね。
本来は男役である専科の一樹千尋(いつき ちひろ)さんの西太后も非常に楽しみです!
今回ご紹介したキーワードの他にも、日清戦争や訪清した伊藤博文の存在など、『蒼穹の昴』にまつわる興味深い史実がもっとたくさんあります。
『蒼穹の昴』を何倍も楽しむために、是非いろんな知識を身につけて観劇してみましょう!