5月3日の初日が迫っている宝塚歌劇団月組公演『ブエノスアイレスの風』。
星組への組替えが決定している暁 千星(あかつき ちせい)さんが月組生として出演する最後の作品となっています。
暁さんが主演する別箱作品は『Arkadia-アルカディア-』以来、実に5年ぶりとなります。
待ちに待った主演作品が再演モノか…と思っている方も少なくないと思いますが、あなどるなかれ!
この『ブエノスアイレスの風』はスーパーダンサーにしか演じられない特別な役なんです。
どこがどう特別なの?という方に向けて、過去の初演、再演をおさらいしながら『ブエノスアイレスの風』の見どころを紹介していきたいと思います!
全4回すべての配役データを作ってみた!
今回で3回目(正確には4回目)の上演となる、『ブエノスアイレスの風』。
まずは各キャストを確認していきましょう。
※カッコ内の数字は当時の学年。1999年は変更となった役のみ生徒名を入れました。
1998年が初演。それがあまりに好評だったため、翌年に東上を含めた再演が決まりましたので、厳密に言えばこれまで4回上演されています。
1999年の時はいわゆる「新専科制度」が発足して各組の2番手~3番手が一斉に専科へ組替えとなっていたり、他の別箱公演に出演しているメンバーもいたので、一部の配役が変更となりました。
それもまた役替わりのようで当時のヅカファンは非常に楽しめたようです。
演じている学年を見てみると、全体的に段々と学年が上がってきている印象です。
例えば…
イサベラ:西條さん(研3)→夢咲さん(研6)→天紫さん(研8)
ロレンソ:美郷さん(研11)→光樹さん(研15)→美城さん(研11)→凛城さん(研17)
武器商人:大空さん(研7)→遼河さん(研4)→水輝さん(研7)→蓮さん(研12)
これは、年々ジェンヌさんたちの外見が若々しくなっているという傾向なのでしょうか?
主人公のニコラスを含めて、全体的に大人っぽい物語の中で、いかにも「若者」という役は、マルセーロとリリアナ。イメージ的には10代のように思います。
その役と同じように、演じている生徒さん達も研2、研3などのフレッシュな面々がキャスティングされているのはいつの時代も変わらないようですね。
今回もリリアナ役には研3の花妃舞音(はなひめ まのん)さんがキャスティングされています。
「今夜、ロマンス劇場で」では新人公演のヒロインに大抜擢された、いま注目の生徒さんなので非常に楽しみです!
とにかくスーパーダンサーだけが演じてきたニコラス役
「政治」「男の友情」「ハードボイルド」「スーツ」を真骨頂とするシリアスな正塚作品。
まさにこの『ブエノスアイレスの風』もその直球ど真ん中です。
脅したり凄んだり、怒号が飛び交う鬼気迫る場面がたくさん出てきますが、実際に演じているのはまだ20代、30代前半の美しい女性たちですから、かなり難しいチャレンジとなるはずです。
特に正塚芝居は「…うん」「そう」「いいよ」などの相槌も多く、舞台用の台詞とはかなり違うニュアンスで台詞を言うので、「グランドロマン」などの大芝居に慣れているタカラジェンヌたちにはそこも大きな挑戦となるはずです。
しかも、それに加えて主演コンビには「本格的なアルゼンチンタンゴ」という超難題が待っています。
アルゼンチンタンゴは宝塚のショーの場面にもよく使われますが、『ブエノスアイレスの風』ではかなり本場に近い難しい足さばきが振り付けられています。
本来のアルゼンチンタンゴはとにかく「女性を輝かせること」が主軸ですので、男性だけが目立つ振付を踊ることはありません。
ですので、かなり宝塚向けの振付にはなっていますが、アルゼンチンタンゴのプロを目指すカップルのお話ですので、ここまで本格的にタンゴを踊るというのは生徒さんたちも初めての経験のはずです。
「3歳からバレエを習っています!」という生徒さんもたくさんいる宝塚。初演の紫吹さんも再演の柚希さんもまさに超バレリーナです。
しかし、バレエとタンゴはまるで違うダンスなので、「バレエが上手い」というだけではこなせない役どころ。
身体を自由自在に扱えて、リズム感やグルーヴ感を併せ持ち、「魅せるダンス」が踊れる、数少ない生徒さんにしかできない特別な役、それがニコラスという役、と言えますね。
その辺の条件も暁さんにピッタリ当てはまっていますので、期待は膨らむばかりです。
しかし、キザな魅力が売りの紫吹さん、低音ボイスが男らしい柚希さんと違って、暁さんはベビーフェイスでアイドル寄りの魅力を持つスターさんです。
言葉少なく、陰を持った渋い役どころのニコラスは暁さんに与えられた挑戦の場、とも言えそうです。
タンゴ初心者がドハマりするダンスシーン
『ブエノスアイレスの風』の見どころはとにかくたくさん。
- 主人公ニコラスとリカルドの友情
- 過去から解放されないリカルドの哀しさ
- 稚拙な若者、マルセーロの破天荒ぶり
- 兄妹以上の強い絆を感じさせるリカルド/リリアナの関係性
- 肝の据わったフローラの啖呵と落ち着いた歌声
- 脅し脅され、鬼気迫る交渉を見せる武器商人
- 観客の心のオアシス、バーテン
出番時間は少なくとも、印象に強く残る素敵やキャラクターばかりです。
では、「いちばんの見どころは?」と訊かれればやっぱり主演コンビの本格的なタンゴは惚れ惚れすること間違いなし!
タンゴはショーのいち場面として見たことはあるけど…という人が『ブエノスアイレスの風』を観ると、終演後はきっと「タンゴ、大好き!!」になっていますよ。
バンドネオンの音色というのは胸を搔きむしられるような切なさと情熱があり、それに合わせて踊る男女の駆け引きのような足さばきも圧巻。
アルゼンチンでどうしてこんなにタンゴが愛されるのか、そしてそれがどうしてこんなに宝塚と相性がいいのか、存分に堪能できる素晴らしい作品となっています!