宝塚歌劇団花組公演『鴛鴦歌合戦』を観劇してきました。
Amazonプライム・ビデオで白黒映画を予習しましたが、白黒映画を見慣れていないのと、物語の展開にハテナ(?)マークが付く場面も多かったので観劇前は期待半分不安半分の気持ちでした。
しかしいざ観劇すると彩り鮮やかな世界が広がり、新たに付け加えられたお話も物語に深みを持たせて素晴らしい作品でした。
宝塚歌劇の舞台は悲恋や哀しい運命の物語も多いですが、こちらの作品はコメディと言ってもいいほど楽しく、ボケ役の演者さんが振り切っておられています。
暑い夏を笑いで乗り切りたいぐらいの元気がでる作品でした。
柚香礼三郎のかっこよさが説得力あり
柚香光さんは前作『二人だけの戦場』前々作『うたかたの恋』と軍服姿が続いていましたが、がらっと変わって着流し姿も涼しげで夏にぴったりの作品でした。
浅井礼三郎は真っ直ぐで正義感が強くて、ストレートに正しいことを言います。
その真っ当さが柚香光さんの強い眼差しにぴったり当てはまる役柄でした。
強いて欠点を挙げるとしたらモテすぎて優柔不断という点でしょうか?
また立ち回りのシーンでふくらはぎがあらわになりますが、凛々し過ぎて(ふくらはぎに凛々しいというのもおかしいですが)反則だなぁと思います。
女子のバトルがガチンコ勝負っぽくてゾワゾワ
この作品の見どころの一つに柚香光さん演じる浅井礼三郎を取り巻く女子のバトルがあります。
星風まどかさん(お春)と星空美咲さん(お富)が柚香光さんをめぐってバチバチ火花を散らす様子がおかしくもあり、演技に見えない凄みがあってこわいぐらいでした。
そしてどっちつかずで受け流す柚香礼三郎のモテ男ならではの優柔不断さがこちらまでイラッとしてきます。
早くハッキリさせなさいよ〜と思ってしまいました。
星空美咲さんがお金持ちの娘で取り巻きを引き連れて、星風まどかさんと柚香光さんの間に突っ込んでいくシーンは間が絶妙で素晴らしいです。
誰も死なないし、ツッコミどころ満載の登場人物
ヒロインお春(星風まどかさん)の父親志村狂斎を今期で退団発表をされている和海しょうさんが演じられています。
裕福ではないのに骨董大好きで米代すら骨董に注ぎ込んでしまいます。
悪い人ではないけど少々頼りのない父親です。
同じく骨董大好きの花咲藩藩主峰沢丹波守を永久輝せあさんが演じられています。
人は悪くないけど正直おバカさんな殿様を可愛く演じられています。
こんなにとぼけた永久輝せあさんはめったにみられないと思います。
また退団発表されている航琉ひびきさんがインチキな骨董を売りつける道具屋六兵衛役を演じておられます。
骨董を取り巻く登場人物の方々はすごく真面目に演技されているのですが、みんなオカシイのでお芝居の中盤ごろから、つい笑ってしまう場面の連続になります。
オリジナルキャラクターと思われる蓮京院役の専科 京三沙さんも上品な尼僧なのですが今作品一番のズッコケシーンを演じられているので、京三沙さんのシーンは超見どころの一つです。
また可笑しなシーンといえば聖乃あすかさんの秀千代の「嫌じゃ嫌じゃ」もシリアスな役を演じるカッコイイ聖乃あすかさんから想像できないほのぼのさです。
礼三郎の人生観「とかくこの世はままならぬ。日傘さすひと作る人」
女子のバトルや骨董をめぐるコメディなど、とにかく楽しい要素の多いこの作品ですが、礼三郎が父親や貧乏に対する不満を口にするお春にかける言葉です。
自身の生い立ちから出た言葉ですが、自分でどうしようもない事に不満を言わずに受け流して生きていく礼三郎の人生観を感じます。
お芝居の終盤に強がっていたり意固地な部分がお春の愛でほぐれていくあたりが宝塚らしい物語の終わり方でした。
演出家は『うたかたの恋』に引き続き小柳奈穂子先生です。
原作の白黒映画が映像や音声の不鮮明さから深く理解できなかったのですが、色彩鮮やかにストーリーも解釈しやすくなおかつ宝塚らしい「愛」も盛り込んで最構築されていていました。
原作の良さを残しつつ、小柳奈穂子先生の手腕と花組の演技力が素晴らしくマッチした作品で、和物といっても人情ばかりではないと気付かされた作品でした。
ライター・さんなん