花組『エリザベート』前夜祭、明日海りおさんが灯した温もり

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宝塚初演から30周年という大きな節目の年に、再び花組で幕を開ける『エリザベート-愛と死の輪舞-』。本公演の開幕を前に開催された前夜祭での余韻にまだまだ浸っております。

歴代の歴史を振り返るこの佳き日に、特別ゲストとして大劇場の舞台に姿を現したのは、2014年花組公演でトートを務められた明日海りおさん。

当時の相手役である蘭乃はなさんと共に並び立たれたその姿は、凛とした品格が漂う純白のパンツスタイル。

客席からの温かな拍手に包まれながら一歩を踏み出した瞬間から、大劇場全体がどこか懐かしく、そして何とも言えない優しい空気に満たされていくのが感じられました。

明日海さんと『エリザベート』といえば、研1での群衆役に始まり、2009年月組での本公演ルドルフと新公トート、そして2014年の花組トップお披露目での本公演トートへ至るという、まさに作品と共に歩んでこられた希有な歴史があります。

ご自身でその歩みを「エリザベートの申し子」と少し照れくさそうに、ふんわりとした独特の間で振り返られる姿には、客席からも思わず笑みがこぼれていました。

現役時代からファンを惹きつけてやまなかった、あの柔らかでマイペースな語り口は今も健在です。

大作を前にしてどうしても緊張感が漂いがちな前夜祭のステージにおいて、明日海さんがひとこと言葉を発するたびに、張り詰めていた空気がふっと緩み、会場全体が心地よい温もりに包まれていくようでした。

SNSなどでも「みりおさんの姿と言葉に心底癒やされた」「あの独特の空気感に触れるだけで、張りつめた気持ちがほどけていく」といった声が多く寄せられていましたが、客席にいた誰もが同じように、胸の奥がじんわりと温かくなるような安らぎを覚えていたのではないでしょうか。

けれど、いざ蘭乃さんと共にマイクを握り、「私が踊る時」や「愛と死の輪舞」の調べが響き渡ると、その場の空気が鮮やかに一変します。

先ほどまでの柔らかな微笑みからすっと影が差し、発せられる第一声の深み、視線の憂いと鋭さに、かつて大劇場を熱狂させたあの耽美で孤独な黄泉の帝王の気配が鮮明に立ち現れました。

退団から時を経てもなお、表現の奥底に息づく役への深い理解と技術の確かさに、静かに引き込まれずにはいられませんでした。

今回の登壇の中で、とりわけ深く心に残ったのが、明日海さんが現役生たちへ向けられた言葉です。

「今は映像があるからなぞることはできるかもしれないけれど、奥の深いところを継承していってほしい」

過去の素晴らしい名演がいつでも手元で見られる現代だからこそ、この言葉の持つ重みは計り知れません。

視覚的な形や節回しを綺麗になぞるだけでは届かない、役の心情の襞やカンパニー全体の熱狂といった「魂」をこそ受け継いでほしい――幾重もの重圧と向き合いながらあの舞台を創り上げた経験者だからこその、実に的確で、どこまでも愛情深い金言だと感じられます。

その言葉を真摯な眼差しで受け止めていた現トップスター・永久輝せあさんの表情も印象的でした。

明日海さんの退団公演時に雪組から花組へと合流し、同じ組の空気を肌で知る永久輝さんが、いま花組の真ん中でトートという大役に挑んでいる。

偉大な先輩を見つめる眼差しには、隠しきれない敬慕の念とともに、託されたバトンをしっかりと背負う覚悟が滲んでいるように見えました。

また、フランツを務める聖乃あすかさんをはじめ、明日海体制の薫陶を受けながら頼もしく成長した後輩たちが脇を固めていることも、花組の歩みを見守ってきたファンとしては感慨深いものがあります。

過去の上演への敬意を胸に抱きながら、形をなぞるだけにとどまらない「今の花組だからこそ立ち現れるエリザベート」を、永久輝さん率いる花組がどのように紡ぎ出してくれるのか。

初日の幕が上がるその瞬間を、客席の片隅から静かな期待とともにお待ちしたいと思います。