宝塚歌劇団、2019年最後の公演が終了しました。最後を飾ったのが月組『I AM FROM AUSTRIA-故郷は甘き調べ-』
今回は、その『I AM FROM AUSTRIA-故郷は甘き調べ-』の観劇レポートをお送りしたいと思います。
オーストリア発、日本初上陸のミュージカルということで上演前から注目を集めていたこの作品。
2019年は日本とオーストリアの国交樹立150周年という節目の年で、今年上演できるのは芸術を通して互いの関係を深めてきた証、そして宝塚への信頼の現れだなと感じます。
躍る鮮やかな音楽
この作品は、芝居の内容に合わせて曲をつくるのではなく、元々ある楽曲を作品の中にはめ込んだいわゆる「カタログミュージカル」です。
オーストリアで親しまれている曲を使ったナンバーは、とにかくポップでキュート!
覚えやすいメロディラインは、宝塚のショーナンバーに通ずるものを感じます。
歌詞の記載がなく聞き取りが難しいのが玉にキズですが、『Nix is fix』や『Kiss kiss』などのサビは、聞いたそばから一緒に口ずさみたくなること間違いなしです。
一方主題歌の『I AM FROM AUSTRIA』は、故郷をダイナミックかつあたたかに描いた雄大なナンバー。
オーストリアで第二の国歌と呼ばれるのがわかるような素敵な曲でした。
このお話が単なる「御曹司と大女優のラブストーリー」ではなく、ルーツを同じくする者同士、心のつながりから生まれる愛の物語なのだということが伝わってきます。
ともすると軽薄になってしまいそうな明るさのあるナンバーも、雄大な主題歌も、ストーリーにきちんとなじませダイナミックに聴かせる月組の皆さんのミュージカル力を感じました!
目が足りない!魅力的な役者陣
ジョージ役・珠城りょう
ホテルの御曹司ジョージを演じた珠城さんは、力の抜けたナチュラルな立ち居振る舞いで舞台全体を弾ませていました。
ただのシャツやセーターを着ているだけであんなに男前に見えてしまうのも罪作り……!
寒い冬には、着ていたジャケットを肩にかけて「少しはマシ?」と訊いてくれる珠城ジョージがいてほしいものです。
若いながらもホテル全体のことを見渡し、VIPなお客様から従業員そしてホームレスの人々まで誰に対してもフラットな態度でものを伝えるジョージの姿は、若きトップスターとしての珠城さん自身とどこか重なって見えました。
エマ役・美園さくら
美園さくらさんは、ハリウッド女優エマにふさわしいオーラと、オーストリア人の少女アデーレとしての素朴さという2面を、見事な演技と歌唱で表現していました。
ブロンドの髪をなびかせ、ピンヒールにサングラスで現れた美しさはまさに大女優そのものです。
ハリウッドという華やかな迷路で迷った彼女が、故郷で自分の生きたい道を見つける。
主題歌『I AM FROM AUSTRIA』は彼女の歌で、この物語の主役は彼女であると言っても過言ではないと感じさせる、堂々とした輝きでした!
リチャード役・月城かなと
怪我から復帰した月城かなとさんは、心なしか以前より美しさが増していたような……。
エマのマネージャーであるリチャードは、憎っったらしいことこの上ありません(褒めています)。
金儲けのことしか頭になく、初対面からジョージを「ウインナー野郎!」と罵り、札束に囲まれながらタンゴを歌い上げるという色濃い悪役をこってりと演じました。
エードラー役・鳳月杏
鳳月杏さん演じるジョージの父、ヴォルフガング・エードラーは大人の男の魅力満点のパパで、この親にしてこの子あり、と思わせる遊び心と足の長さが印象的。
ちょっぴり恐妻家、たっぷり愛妻家という素敵な夫でもありました。
ロミーエードラー役・海乃美月
妻のロミー・エードラーを演じた海乃美月さんは、女社長らしい厳格さと母の愛のバランスが絶妙!
上級生である珠城さんの母であり、さらに上級生の鳳月さんを尻に敷くというとても難しい立ち位置だったと思いますが、それを感じさせない強く美しい女性像でした。
暁千星
刈り上げたヘアスタイルが衝撃的だった暁千星さん。
筋肉を魅せるポーズもキメキメで、アスリートになりきっていました。
片言のセリフ回しもリズム良く、大人でありながらもコミカルでキュートという、新しい魅力の役であったと感じます。
光月るう・風間柚乃
全体に軽快な笑いを添えていたのが、光月るう組長演じるエルフィーと、風間柚乃さん演じるフェリックスです。
組長は女役でもチャーミングで存在感抜群。
風間フェリックスはダメダメながらも憎めない可愛らしさで、ついつい目をかけてしまうジョージの気持ちがよくわかります。ギャグを飛ばすわけでもなく自然なテンポで笑いを取る力に、さすがの演技力を感じました……!
「芝居の月組」ここにあり!
珠城りょうさんがトップスターになってから、月組では海外ミュージカル作品が頻繁に上演されています。
プレお披露目の『アーサー王伝説』に始まり、『グランドホテル』『雨に唄えば』『エリザベート』『ON THE TOWN』、そして今作『I AM FROM AUSTRIA』と、実に6作が海外作品です。
これらの作品は、もちろんたっぷり潤色されてはいますが、宝塚仕様の「スターのための当て書き」ではありません。
トップスターだろうが何であろうが、役者として役に寄っていく必要があるのです。
また番手の考慮も薄く、様々な役どころにスポットが当たるため組子全体の技術が必要とされます。
近年の月組に海外作品が多いのは、こうした課題に立ち向かえる組全体としての充実があるためでしょう!
舞台の隅々までお芝居への意識が行き渡り、「芝居の月組」の呼び名に恥じない役者集団であることをひしひしと感じる作品でした。