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宝塚歌劇・ストリーテラーのいる作品を紹介

初心者のための宝塚

舞台を観ていて物語の世界にグッと引き込まれるタイミングというのは人によって様々違いがありますが、私の中で度々「これだ!」となるのがストーリーテラーという存在です。

ご存知かとは思いますが本来ストーリーテラーとは物語の筋の面白さで読者を引き込む作家という意味になります。

舞台においてのストーリーテラーは作家ではありませんが、観客に物語の筋を伝える存在と言えるでしょう。

全ての作品に登場してくる存在ではありませんが、ストーリーテラーとはお芝居の中にいるキャラクターなのにその物語の世界にはいない第三者に向けて語りかけているというメタフィジックス的要素も含んだ曖昧な存在でもあります。

今回はそんなストーリーテラーのいる宝塚歌劇の作品をいくつかご紹介させていただきます!

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エリザベート

まず、最も有名と表現しても過言ではない「エリザベート」です。


宝塚歌劇団でも複数回上演されており、他にも東宝ミュージカルや海外でも多く上演され長く愛され続けている作品です。

実存したオーストリー=ハンガリー帝国の皇后エリーザベト・アマーリエ・オイゲーニエ・ヴィッテルスバッハ(ドイツ語表記)の波乱とベールに包まれた半生を、彼女につきまとい誘惑する「死(トート閣下)」という架空の存在を通して描いた物語です。

ここで登場するストーリーテラーは実際にエリザベートを殺害したことでも知られているルイジ・ルキーニです。

舞台で最初に観客の目に入ってくる存在であり、お衣装は実際にルキーニが逮捕時に着用していたような全身黒に似せトップスだけ白黒ボーダーではありますが場面によってはタキシードやスパンコールジャケットというようなウィットに富んだ衣装を身につけたり、実際には歴史上彼がいるはずのない場面にも登場して劇中劇のように自分以外の誰かを演じながら観客に物語の筋書きを説明してくれます。

実在した1人の人生を描いているため、本来であればかなり膨大な情報量を含んだストーリーなのですがルキーニという存在がいるからこそ場面の情報を一気に得ることができるという利点もあります。

また、歴代ルキーニ役の皆さんの役作りによってかなり物語も違って見えてくるという面白さもあります。

例えば元月組トップスター龍真咲さんはかなり狂気に満ちたルキーニであったため、劇中劇として他の登場人物を演じているその時でさえもエリザベートが味わう悲劇を楽しんでいるかのような口ぶりで観ているこちらもハラハラしてしまう程でした。

現在雪組トップスターである望海風斗さんが花組におられた際に演じられルキーニは、歌や演技の安定感はもちろんのこと溢れ出る色気に心を奪われた方も多いのではないでしょうか?

1番最近に上演された月組では月城かなとさんがルキーニを演じておられました。

月城さんのルキーニは美しいビジュアルにぴったりとも言えるような神経質さをプラスされた雰囲気を醸し出しており、彼自身その後の流れを知っているはずなのに1シーン1シーンにイライラして見せたりと表情がクルクル変わる狂気満ちた姿に目を奪われます。

このように同じストーリーなはずなのに演じる方が変わることによって受取手である我々の気持ちも変わってくるから再演作品は楽しいですね。

うたかたの恋

次におすすめなのが「うたかたの恋」です。


こちらはエリザベートとはまた違った角度で描かれたエリザベートのいるハプスブルク家を元にされた作品です。

こちらの主人公はエリザベートの息子であるルドルフ・フランツ・カール・ヨーゼフ・フォン・ハプスブルク=ロートリンゲンです。

たった1人の皇太子としてハプスブルク家世継ぎとして期待された彼ですが、両親との関係や政治的対立から孤立し、今も尚多くの謎に包まれている男爵令嬢であるマリー・フォン・ヴェッツェラとの謎の死を遂げたマイヤーリンク事件を元にした同名のフランス小説が原作になります。

ここでのストーリーテラーはルドルフの従兄弟であるジャン・サルヴァドル大公なのですが、その役割は先ほどのエリザベートのルキーニとは全く異なります。

ルキーニは割と出番も多く劇中劇のように歴史上いるはずのない場面にもモブの登場人物として登場して物語を回していきますが、ジャンは要所要所で説明が必要な時にまるで小説のト書き部分を読み上げるかのような感じで登場してきます。

ルキーニよりかは説明的な口調であったり登場の仕方ではありますが、こちらもエリザベートと同じく実際の歴史上にあった事件が元となっているためジャンの存在なしに観客の理解を得るのはかなり難解かと思います。

柴田侑宏先生が脚本ということで先ほどのルキーニ程自由さを持ったキャラクターでもなければそのようなシーンはありませんが、悲劇的な結末を迎える従兄弟を持つジャンがストーリーテラーという立ち位置に据えられているということがまた物語の悲痛さをより際立たせるような気がしてつい深読みしてしまうものです。

アリスの恋人

最後の作品は「アリスの恋人」です。

元花組トップスター明日海りおさんと元月組トップ娘役の愛希れいかさんが中心となった皆さんご存知ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」を原作に現実世界から迷い込んだ女性アリスと青年ルイス・キャロルの冒険と恋をポップに描かれた作品です。

小柳奈穂子先生が手掛けられておられたこともあり安心と信頼の可愛らしいキャラクタービジュアルの数々…!

とにかく皆さん可愛らしくて観ているだけで女子力爆上がりしそうです。

こちらの作品でははっきりとキャラクター自身が自分のことを「狂言回し」と表現しているのでとてもわかりやすいのですが、現在月組トップスターの珠城りょうさん演じる白ウサギ、マーチ・ラビットがストーリーテラーとなっています。

漢らしいビジュアルをしたキャラクターを演じることの多い珠城さんですが、こちらではまさかのうさ耳を身につけ愛風ゆめさん演じる幼い赤の女王の相手をしてあげたりと正に可愛いの権化。

世界中の多くの方々に知られている作品を原作としているため、正直ストーリーテラーという存在がなくても成立する作品ではあると思います。

しかし、そこに敢えて入れたのはより作品の世界観に引き込むためではないかと思います。

最初に舞台上に登場するキャラクターでもあり、上演中の注意事項や幕間休憩の案内までしてくれるマーチ・ラビットは正にストーリーテラーのメタフィジックス的要素の塊です。

しかしそのメタ的要素すら世界観にマッチしていて、現実の話をしているはずなのに興ざめするどことかストーリーテラーが口にしたことによりもしかしたらここにいる自分もこの世界の住人なのでは?と思わせてくれる魅力があります。

この3作品以外にもストーリーテラーが登場する作品は多くあります。

改めて見てこの作品におけるこのキャラクターの存在意義ってなんだろう?と自分なりに解釈してみるのも楽しいかもしれません。

是非お試しあれ!