『エリザベート~愛と死の輪舞~』は、今年の月組公演が宝塚歌劇団による記念すべき10回目の再演。
そこで今回のテーマは、月組2番手男役・美弥るりかさん演ずる、宝塚史上10人目の皇帝フランツについて。
美弥るりかのフランツやいかに!?
演目・配役が発表されたときには、「美弥るりかがエリザベートに出演するなら、この物語のストーリーテラーでもあるイタリア人無政府主義者、ルイジ・ルキーニ役で見たい」という声も多くあったようだ。
演出家の小池修一郎氏も、そう発言している。
実際過去には当の美弥るりか自身が、タカラジェンヌのプロフィール事典である『宝塚おとめ』に、やってみたい役は『エリザベートのルイジ・ルキーニ』だと書いていた。
近年様々な色濃い役を自らのモノにしてきた美弥が描く、実在したオーストリア皇帝兼ハンガリー国王の人生。いわゆる正統派というカテゴリーに属するこの役を、どう魅せてくれるのか。稽古始動前から大変楽しみであった。
さすがは“芝居の月組”の2番手スター!
ただのマザコン皇帝かつ妻・エリザベートの尻に敷かれた言いなり夫。
正直そんなイメージでしかなかった彼。そう、美弥るりかのフランツ・ヨーゼフにお目にかかるまでは。
お目にかかってからというもの、めっきり彼の虜になった。
だって、めちゃくちゃいい男じゃないか…!
まぶしいほどに麗しく、たおやかで高貴な微笑みは、優しさに満ち溢れている。
そして時折見せる、やるせない思いを噛み潰すかのような表情。
この人は、人の心の痛みがわかる人だと感じさせる。
それゆえに、あらゆる意見に対して「それも一理ある」と、考えあぐねてしまうことも多々あるのかなぁ…なんて。
皇帝らしく、生きてきた。
そして…
結婚披露宴で取り乱したシシィに対して「皇后らしくするんだ」と優しく諭すフランツ。
美弥フランツが、「皇帝らしく生きよう、生きなければ」、そう心に誓っているからこその言葉だったように思う。
そこまで観る者の想像力を掻き立ててくれるお芝居に脱帽。
そうして皇帝らしく生きてきたからこそ、シシィの優しさに包まれたい夜だってあるし、それが叶わぬのだから黄泉の美女に癒されたい瞬間だって1度くらいはあるに違いない…。
また、息子・ルドルフに対しても、皇帝らしく、父親らしく接してこられたのだろう。
一見すると冷たく突き放したかのようにも思えるが、ルドルフのためを思った上で、父親として“皇帝とはどうあるべきか”を示した結果だったかと。
次回の主演作も期待大!
「彼がどんな人物で、なぜそのような言動に至ったか」をしっかりと魅せ、
ただの「登場人物の1人」では終わらない。
だが決して作品の世界観を歪めたり壊したりすることはなく、“出すぎた杭”にはならない絶妙なバランス。
ついスピンオフ作品でその人生をより深く追いたくなるような、芝居心冴えわたる圧巻の演技である。
次回の主演作品『アンナ・カレーニナ』も、この演技力が十二分に生かされる演目と言えよう。
美弥るりかのアリョーシャ、期待に胸が膨らむばかりだ。
著者:まや のあ