宝塚歌劇団の演出家・藤井大介といえば、
彼自身が小学校高学年の頃、安奈淳さん主演の「ノバ・ボサ・ノバ」を観劇し、母親に「レコード買って!」とおねだりして買ってもらって帰ったという逸話の持ち主です。
その頃から一貫して「宝塚歌劇を作る人になりたい」という思いで、突き進んでこられた演出家の先生です。
ですので、ファン心理がとてもわかっておられます。
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先日、クルンテープを観劇しましたが、美弥るりかさんと珠城りょうさんのBL的な絡みを見て、「ああ、ファンの求めている美弥るりか像をわかっているんだなー」と思いました。
まあそれは、以前のBUDDYの時の上田久美子先生もわかっておられましたけど。
そんなどっぷりとしたファンだった藤井大介先生だからこそ、わかるファン心理というものがあるのだと思います。
月組公演・レビュー・エキゾチカ『クルンテープ 天使の都』演出
今回のショーは、全体として確固たる流れが確立しているなと思いました。
「藤井大介ショー」としては、ひとつ確立したものが出来たのであろう、と感じました。
藤井大介先生のショーといえば、「退団者に優しい」ということが挙げられます。
退団者のみのシーンを作ったり、退団者に華を持たせる場面があったり・・・。
そこで今一度オススメしたいのが、藤井大介先生が作るトップスター退団公演のショーです。
藤井大介演出のトップスター退団公演
その中でも「Cocktail」と「ア ビヤント」がオススメです。
匠ひびきさんの退団公演「Cocktail」
Cocktaiは2002年の匠ひびきさんの退団公演で、全曲がJ―POPで構成されているのが特徴です。
この間、Sante!で明日海りおさんが長渕剛さんの乾杯で黒燕尾を踊られましたが、一番最初に、この「長渕剛さんの乾杯で大階段で黒燕尾を踊る」というシーンが登場したのがこのCocktailというショーになります。
匠ひびきさんは、退団公演の東京公演を病気のためにほぼ全日程休演されていますので、見るとしたら宝塚大劇場のバージョンがオススメです。
匠ひびきさんの「3日前から、足が動かなくなりました。この3日間に初めて宝塚歌劇をご覧になったお客様には、こんな状態のものをお見せして申し訳なかったと思います」で始まる退団挨拶は、いつ見ても泣かされるものです。
そんな千秋楽でなくても、宝塚大劇場公演であれば、映像でも楽しく見られる魅力があるショーであるのがCocktailです。
何より全曲が聞いたことのあるJ―POP!
やはり、聞いたことのある歌をタカラジェンヌが歌ってくれるというのが何より楽しいですよね。
90年代のJ―POPですが、若い方でも馴染みのある名曲ばかりです。
また、コミカルなシーンが多いのも特徴です。
きっとあっという間の1時間を過ごせること間違いなしです。
また、匠ひびきさん自身が今にはあまりいないスターさんなので、その魅力にも惹き込まれることと思います。
安蘭けいさん退団公演「ア ビヤント」
そして、次にオススメしたいのが「ア ビヤント」です。これは、言わずと知れた安蘭けいさんの退団公演のショーになります。
これは、「全編さよならショーなんじゃないか」と思わせる構成ぶりです。
劇場に通い詰めて良く泣いたのを覚えています。
安蘭けいさんはコメディもこなすオールマイティな方なので、笑えるシーンもあるのですが、それがもはや笑い泣きになってしまうほどの飽きさせない作りになっています。
私個人としては、藤井大介先生のショーといえば、これが一番大好きです。
中身もかなり凝った作りになっています。
途中で安蘭けいさんが持っているドール人形は、安蘭けいさんの初舞台、ベルサイユのばらのラインダンスの時の衣装を着ています。
この時は安蘭けいさんから柚希礼音さんへという組内での順当なバトンタッチが行われましたので、二人ががっぷり四つで組んで踊るシーンも盛り込まれており、そのシーンも非常に感動的なものです。
そういえば、最近当たり前になってしまっている開演アナウンス後の拍手。
あれって安蘭けいさんのトップお披露目からだって知っていましたか?
あの時は、もうトップにはなれないんじゃないかと半ばファンも諦めていた安蘭けいさんがトップスターになったことで、本当に自然と湧き上がった拍手なんですよね。
それが今となっては、全公演で行われているのですから、こういったものにも始まりの歴史があるのだなあと感じます。
「ア ビヤント」は、そんな苦労や遠回りをしながらやっとトップスターになった安蘭けいさんへの贈り物のようなショーです。
そう思って見ると、本当に泣けるシーンが多いです。
全てのシーン、全ての場面に「これは繋ぎだなー」というシーンがなく、意味がある。
そんなショーを見たのはこの時が初めてで、1時間ずっと泣きっぱなしだったことを覚えています。
しかし、藤井大介先生は、まだ若い。
これからもいろいろなことにチャレンジしてもらいたいと思います。
ノバ・ボサ・ノバの再演ではその公演で宝塚へ釘付けになった少年のあふれんばかりの愛が見えていましたが、そんな藤井大介先生だからこそ。
きっともっといろいろなショーが作れるはず。
ここで「完成」と思わせないでほしい。
2000年代前半、「ショー:藤井大介」という発表があっただけでワクワクできたあの感動を取り戻したい。
そつなく、でない「さらに進化した藤井大介」を見てみたいと思ってやまない、今日この頃なのです。
ライター:水城 稜