宝塚歌劇団星組の2番手の愛月ひかるさんが死を演じるという、歴代の配役から見ると少々異色のB日程。
しかし大劇場公演のライブ配信を行ったところYahoo!話題のキーワードで「愛ちゃんの死」というワードがベスト10入りするなど、鑑賞した人々の心を動かしました。
昨年に続きコロナ禍での公演中止で東京公演の役替りB日程は突然終わってしまいましたが、好評を博したこのB日程の公演を忘れないためにも役替りを中心に感想をお届けします。
礼真琴
2013年に行なわれた新人公演以来のロミオを演じた、礼真琴さん。
2010年に梅田芸術劇場、博多座での日本初演・星組公演で愛役を務めた礼さんですが、この時はなんと研究科2年。
観劇後にプログラムをめくりながら礼真琴さんの名前を確認する観客の姿が目立ちました。
男役として完成されていない下級生時代ならではの中性的な魅力と、下級生ながらに達者な演技が印象に残っています。
そして2011年雪組、2012年月組での再演を経た2013年星組での上演。
本役では再び愛、そしてベンヴォーリオを演じました。
尊敬する柚希礼音さんの友人役を上級生に負けずに演じたことも話題でしたが、愛役も表現が広がり素晴らしかったです。
新人公演のロミオは瑞々しく「ロミオとジュリエット」は若さゆえの暴走、苦悩の物語なのだと感じる演技でした。
満を持して本役として挑んだ今回の公演。
礼さんの持ち味が発揮されました。歌もダンスもお芝居も、と3拍子揃っています。
低く響く良い声を持っていますが見た目の少年ぽさとのギャップも魅力の1つ。
今回、その少年ぽさが良くいきていて、愛する女性と会う日を夢見るも束の間、その恋は……というのが、とても刹那で心を揺さぶられました。
恋に憧れ、仲間との世界に生きる若者らしいロミオを演じ、可哀そうに思わされたり、作品の世界に引き込まれました。
新人公演とはまた違ったロミオになっていて当時より更に表現力が増した分、魅力的でした。
ジュリエット役の舞空瞳さん
今回の役作りはジュリエットの心の内がはっきりと表現されています。
両親に対しても、乳母に対しても自分の意見を言える現代的な少女。
いつか出会える、と夢見るのも積極的です。親の理不尽な要望にも、少々向こう見ずながらも考えを巡らせ立ち向かう芯の強さがうかがえるお芝居です。
礼さんと同じく3拍子揃っていてる舞空さん。
嫌味なく演じました。
また、手足が長くスタイルが良いのでどの衣装も可憐でした。
死役の愛月ひかるさん
先に書きましたように世間でも話題になりました。
台詞のない難しい役どころで全てを身体で表現しますが、とても艶っぽく、マーキューシオやティボルトが死ぬときに魂を吸い込むような仕草がセクシー。
1つ1つの所作に緩急がついていて、言葉では語らずとも「死」そのもので動き自体が雄弁。ダンスの素晴らしさにも見入りました。
上級生なので様々な表現の引き出しがあり、存在感のある死で、今までになかった役作りです。愛月さんの更なる躍進を希望せずにはいられない出来でした。
ティボルト役の瀬央ゆりあさん。
初日は歌が少々弱く感じましたが徐々に戻り、キャピュレットに生まれ背負う苦しみ、従妹のジュリエットへの思いの切なさを感じさせました。
大人にも仲間にもどこかイラついているような印象。
心の叫びや瞳の中にティボルトが他の人達とは交われないものが感じられ、孤高の美しさが出ていて素敵でした。
ベンヴォーリオ役の綺城ひか理さん。
組替えになり2作品目。ロミオやマーキューシオとは仲間だけれど、少し大人というのが伝わり、悪ふざけをしていてもどこか先を考えるようなところがあり、綺城さんによく合っていました。
そんな中、マーキューシオとのやり取りはじゃれあうようで可愛かったです。
マーキューシオ役の天華えまさん。
元気の良いマーキューシオを好演。髪型からしてやんちゃで、喧嘩っ早く、場当たり的な行動が目立つけれど仲間思いの一面も見られました。
配信もあり、他の組のファンにも認知される機会となりました。
パリス伯爵役の極美慎さん。
大阪万博アンバサダーにも選出されている期待の若手。
ジュリエットがそこまで嫌がる?と思うようなスタイル良し顔良しの伯爵。
何となくふわふわしたところが意志の強いジュリエットの意にそぐわない雰囲気がありました。
愛役の希沙薫さん。
若手ならではの柔らかい雰囲気がとても似合い、男役とは思えぬ可愛さがありました。
B日程の特徴としては番手に捉われない配役ですが、瀬央さんがティボルトで同期の礼さんとのバランスが良く、綺城さん、天華さんが仲間ということで新生星組のスターが育っていることを感じました。
そして愛月さんの底力を見せられ、素晴らしい作品になっていました。
何より新しい星組が作られるのを目の当たりに出来たのが嬉しいです。
東京公演ではこれからA日程ですが、こちらも楽しみにしています。