先日、東京では宝塚歌劇団月組「桜嵐記」で新人公演が再開されました。
待ちわびていましたが、このコロナ禍で昨年の宙組以来の開催となりました。
上級生でも難しい日本物のお芝居を下級生だけで上演するとどうなるのか。
とても興味深く観劇しました。
まず、印象的だったのは主人公・楠木正行をはじめとして若さゆえに突っ走る姿が本公演とは違い、青春を精一杯生きた物語として感じられたことです。
主演:礼華はる
正行を演じた礼華はるさんは「ピガール狂騒曲」で新人公演を初主演するはずでしたが、コロナ禍で叶わず、今回満を持しての主演。
舞台に立った姿は武士として立派で華々しく、父・正成の意を継ぎ正々堂々と戦う様も格好良かったです。
弁内侍への思いが、ぐっと抑えながらもどこか隠し切れないものが表れていて、何のために自分の命を捧げるのかという問いに、頭だけではなく情熱で進む正行でした。
歌に上達が感じられ、台詞もはっきりと聞こえる工夫をしていて殺陣にもキレが。
100期が新人公演を卒業した後を引き継ぐ頼もしさを感じ取りました。
ヒロイン:きよら羽龍
ヒロイン・弁内侍役はきよら羽龍さん。彼女も「ピガール狂騒曲」で初ヒロインの予定でしたが、今回が初となりました。
しかしながら「アンナ・カレーニナ」でのキティや、「ダル・レークの恋」のリタで見せた名演技に代表されるように演技派娘役として安定感のあるヒロインで、辛い過去から封印してきた胸の内や、感じなくなっていた花を愛でる心などが正行と心を通じ合う中でほぐれていく様子を丁寧に演じました。
芝居に心がこもっていてこれからも目が離せません。
正儀役:彩音星凪
三男・正儀役は彩音星凪さん。舞台に現れた姿に客席がはっと息を飲む美丈夫ぶり。目元が華やかで人を引き付ける魅力が。
兄たちを尊敬しながらも自分の思いを素直にぶつける性格が描かれていました。
やんちゃではありますが筋の通った生き様に正儀という人物がよく表現されていて、兄・正行からこれからを託された場面では2人とも汗と涙が光り、見ている方も涙を誘われました。
華やかなだけでなく演技にも磨きがかかってきて、期待せざるを得ない若手だと思いました。
他にも芝居の月組らしく、皆がこの作品に向き合い作り上げていました。
風間柚乃
老年の正儀を演じた風間柚乃さんは元々新人公演離れした存在感と技量ではありますが、冒頭での案内役として引き込むあたりは流石としか言いようがなかったです。
40年後の場面でも弁内侍に語り掛ける声に優しさがあり、過ごしてきた年月を感じさせて、ぐっときました。
天紫珠李
同じく老年の弁内侍を演じた天紫珠李さんは、正行を失った後に彼の菩提を弔い、現世とは離れて暮らしてきた様子から、正儀が訪ねてくると少女のころの様子を見せるのが見事でした。
己を閉じ込めてきた中で、正行たちと見た時のように再び桜を見て色を取り戻すのが鮮やか。これがあるので出陣式に時が戻るのが自然なのだと思いました。
柊木絢斗
他にはジンベエ役の柊木絢斗さんのわざとらしさのない老け芝居も素晴らしく、四條畷の戦いで主人である正行から離れがたい様子が胸に迫ります。
羽音みか
百合役の羽音みかさんは夫に対する健気な愛情が心に残り、中宮顕子役の白河りりさんは後村上天皇の后らしい品格と落ち着きがありました。
瑠皇りあ
足利尊氏役の瑠皇りあさんは美しさからくる悪の美が光っていました。
花一揆で美少年をコレクションしているような性癖もある妖しさも。
彩路ゆりか
後村上天皇役の彩路ゆりかさんは高貴な出で立ちがよく似合い、よく通る声が印象的でした。
後村上天皇と言えば、出陣する正行にかける「戻れよ」が心に残りますが、新人公演では台詞が違っていました。
「生きろよ」と声をかけたのです。
今までも「一夢庵風流記 前田慶次」などでサヨナラ色の強い本公演の台詞とは変えることがありましたが、今回も新人公演らしく前を向いた言葉となっており、これから活躍する若手に力を与えていました。
まとめ
全体的に、和物の化粧もきちんと上手く、皆で作る芝居となっていて、主演の礼華さん、ヒロインのきよらさんの誠実で心のこもった芝居が心に響きました。
久しぶりの新人公演となりましたが、このような機会がいかに若手育成に重要なのか、改めてわかりましたし、月組の今後の陣容が決まっていくような印象を受けました
若者らしい感情のほとばしりと、青春の美しさに満ちた素晴らしい新人公演を見せてくれた月組新人公演メンバーに心から感謝致します。