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【冬霞の巴里】原作の『オレステイア』を徹底解説!

宝塚歌劇についての雑記

宝塚歌劇団花組の別箱公演、間もなく初日の幕が上がろうとしている。
その一つ、永久輝せあ(とわき せあ)さん主演の花組公演『冬霞の巴里』

公演解説を読んでみると、なんと古代ギリシアの悲劇作家、アイスキュロスの『オレステイア』がモチーフになっているそうな。

演劇の発祥とも言える古代ギリシアの作品を持ってくるあたりが、もう既に期待を裏切らない雰囲気が漂っています。

でも、「古代ギリシアの作品なんてちょっと難しそう…」といイメージもあると思いますので、初日を前に徹底的に『オレステイア』を調べてみるとともに、『冬霞の巴里』にそれがどう活かされているのか予想してみたいと思います!

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演劇の発祥、古代ギリシアの三大悲劇作家

古代ギリシアは、地中海付近に今でも当時の建物が多く残っていますが、とても発達した文化を持つ国家。

科学や哲学、演劇など、現代に通じるいろいろな研究や文化が始まった高度な都市でした。

今でもギリシアには古代の劇場跡が多く残っており、何千年も前に私たちと同じように人びとが劇場に集まって演劇を楽しんでいたこと、とてもロマンに感じますよね。

デルフォイの古代劇場跡

今のように音響もセットも照明も無く、脚本と俳優の技量だけで物語を見せていくというシンプルな作りだからこその醍醐味もあったように想像します。

このような古代劇場でたくさんの名作が生まれ、演劇の賞レースなんかも行われていたようです。

その中で「三大悲劇作家」として大人気を誇っていたうちの一人がアイスキュロスです。

アイスキュロス自身は戦争に参加した経験もあり、たくさんの友人や身内を失っています。

そうした悲しい経験から人間は何を学べるのか、という思想が悲劇作家としての才能に結び付いたような気がします。

オレステイアとは、トロイ戦争の復讐物語

アイスキュロスが書いた作品は全部で90作ほどあるそうですが、現代に伝わっているのはたった7作品のみ。

その中で3部作の長編となっている『オレステイア』が完全版としてすべて残っているのは奇跡的なことと言えます。

『オレステイア』の舞台は、あの有名な「トロイ戦争」です。

ハリウッド映画にもなったりしているので、なんとなくトロイ戦争の概要くらいはご存知の方も多いかなと思います。

発端は、女を取った・取られたの色恋沙汰です…(笑)

とはいえ、当時のギリシア周辺は国とり合戦で各国が睨み合っている状態です。

殺した殺されたという、いろいろな私的な憎悪がひしめきあっている状況で、ちょっとしたことで一触即発、の部分もあったように思います。

トロイ戦争があったのは、紀元前1000年代。

『オレステイア』が書かれたのは紀元前400年代。戦争や政治の選択を祈祷によって決めていたような時代ですので、『オレステイア』でもその文化が色濃く出てきます。

身内殺しの憎しみの連鎖

『オレステイア』第1部は、ギリシア軍総大将アガメムノンがトロイ戦争に勝利して凱旋帰国したところから始まります。

アガメムノンはトロイ戦争に赴くにあたり、勝利のために娘のイピゲネイアを神に生贄として捧げていました(殺してしまった)。

戦争の為なら実の娘を殺すことも仕方ないという考え方のアガメムノンのことを恨んでいた妻のクリュタイメストラが、愛人であるアイギストスと謀ってアガメムノンを暗殺します。

妻クリュタイメストラの言い分としては、娘を殺した犯人に対する復讐は正義、ということです。

第2部は、アガメムノンのもう一人の娘であるエレクトラと、その弟オレステスが協力し、父を殺された恨みをもって母に復讐します。

オレステスは復讐の神エリニュスにそそのかされるままに、父を暗殺した母とその愛人アイギストスを殺して復讐を果たしますが、「母殺し」の罪悪感に押しつぶされ、発狂してしまいます。

第3部は、罪悪感を抱えきれなくなったオレステスがデルフォイの神殿に逃げ込み、神々に自分を裁いてもらいます。

デルフォイのアポロン神殿跡

被告人:オレステス

裁判長:女神アテナ

弁護人:神アポロン

検察官:復讐の神エリニュス

といった構図です。

現在の日本でも導入されている裁判員裁判で、アテネ市民12名が判決を出しますが、裁判員の意見は6:6で分かれます。

最後に決定権を持っているのは裁判長のアテナです。

アテナはオレステスを無罪としました。

これに不服を申し立てた復讐の神エリニュスですが、周囲から「慈しみの神エウメニデスになれ」となだめられ、それを受け入れたエリニュスは慈しみの神として人びとを見守るようになりましたとさ、というお話です。

『冬霞の巴里』にオレステイアをどう生かすのか

まだ神様と人間がとても近しい存在だった時代らしいお話ですよね。

最後はちょっと強引な結び方のような気もしますが(^^;)、「復讐は正義か罪か」という、現代にも繋がる深いテーマです。

公演案内の中に、「姉と弟の想いが交錯する」とありますので、オレステス→オクターヴ、エレクトラ→アンブルということでいいと思います。

この場合、ヒロインが姉のアンブルになるのでしょうか?ということは、主演コンビにロマンス要素は無し?

それにしても、97期生である永久輝さんの姉役として105期生である星空美咲(ほしぞらみさき)さんがキャスティングされるとは!

落ち着いた佇まいと台詞運びの星空さんですが、演技力で学年差をも覆してしまうとはなかなかの実力の高さです。

出演する生徒さんたちにとっても、「演劇とは」「人間とは」という深いテーマを勉強できるいい機会になりそうな作品ですね。とても楽しみです!