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花組徹底解説!②『巡礼の年』

宝塚歌劇を楽しもう

6月4日に宝塚大劇場にて初日を迎えた、『巡礼の年〜リスト・フェレンツ、魂の彷徨〜』。

花組トップスターである柚香 光(ゆずか れい)さんは就任3年目、相手役である星風まどか(ほしかぜ まどか)さんは宙組トップ娘役時代を含めて5年目。

お2人ともいま充実期を迎えています。

そんなお2人に相応しい、大人の恋模様を描いた今回の演目。星風さん演じるマリー・ダグー伯爵夫人は柚香さん演じるリストの6歳年上で、なおかつ人妻です!!

前回の予習記事に引き続き、後編は主演コンビ以外の重要キャストについて史実を交えて深く掘り下げていきたいと思います。

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【ショパン】エリート!天才!でも晩年は…

『巡礼の年』でショパンを演じているのは、今公演から花組の正式2番手となった水美舞斗(みなみ まいと)さん。

ショパンはリストと同時代に生き、お互いに才能を磨き合って切磋琢磨した音楽家です。

『巡礼の年』では、才能も幸福も持ち合わせ、リストのコンプレックスを刺激する人物として描かれていますが、実際のショパンはなかなかの苦労人です。

音楽一家に生まれ、充分な金銭支援と教育を受けて音楽家として順調すぎる人生を送ってきたショパン。

しかし、皮肉にも唯一の弱点は身体。

何歳ごろから虚弱体質になっていったのかは定かではありませんが、10代の頃に描かれた肖像画からは「結核患者特有の顔つきが見て取れる」という見解があったり、実際にショパンの父も妹も結核で亡くなっています。

10代で既に結核の症状があったならば、人生のほとんどを体調不良で過ごしているということです。

世界中の人が耳にしたことのある名曲をいくつも残していますが、少しずつ少しずつ弱っていく晩年は壮絶な苦しみがあったと想像します。

『巡礼の年』で永久輝せあ(とわき せあ)さん演じるジョルジュ・サンドと出会ったのは26歳の時。

最初はジョルジュのことを嫌っていたショパンですが、次第に惹かれ合っていき、ジョルジュの連れ子2人と共に4人で共同生活を始めます。

しかしショパンの体調はどんどん悪くなり、2人は恋人同士というよりは「患者と看護師」になっていきます。

そして出会ってから10年で2人は別れを迎え、そのたった2年後にショパンは亡くなってしまいます。

つまり、ショパンとジョルジュが共に過ごした期間、ショパンの容体はかなり悪化していたと思われます。

少しでも空気のいい土地に行って静養させたり、そのたびにショパン愛用のピアノを輸送したり、輸送できないときは買い手を見つけたり、ショパンの世話をすべて引き受けていたジョルジュが「もう無理…」と精魂尽き果ててしまった気持ちも理解できますね。

200年前から「多様性」を主張!自由奔放なジョルジュ・サンド

では、永久輝さん演じるジョルジュ・サンドについて。

『巡礼の年』ではリストやショパンと男女関係はありつつ、正式な交際とまではいかない魔性の女、のような役どころです。

「リストのことは私に任せて」と余裕たっぷりのジョルジュ・サンドにマリー・ダグー伯爵夫人が嫉妬のような表情を見せる場面などもあります。

ジョルジュは200年も前から男女平等を訴え、「自分は男でも女でもなく、ジョルジュ・サンドという一人の人間」であることを体現している気鋭の作家でした。

『巡礼の年』でも、マリー・ダグー伯爵夫人が男性の名前を使って音楽批評を新聞に投稿していて、「女のくせに批評家なんて生意気な」という風潮の強いこの時代。

ジョルジュ・サンドはそんなくだらない常識を打ち破る才能あふれる女性ですが、恋愛のほうもかなり自由奔放だったようです。

男装の麗人となって作家活動を始める前に結婚して二人の子供も出産しますが、夫とはすぐに別居。

子持ちでも自由に恋愛を楽しみ、いわゆる「行きずりの関係」のような遊びもかなり激しかったとか。

しかしリストやショパンのような天才には同じアーティストとしてのリスペクトの念があったり、創作意欲への刺激もあったと思いますので、恋愛感情だけでなくアーティスト同士としての絆もあったように思います。

さらに気になるのは、ジョルジュ・サンドは今で言う「LGBTQ」、いわゆる性的マイノリティだった可能性もあるようです。

つまり恋愛対象は男性も女性も。その恋愛遍歴の女性の中にはなんとマリー・ダグー伯爵夫人の名前もあるとか!

確かに、リスト、マリー、ジョルジュの3人で一緒に暮らしていた時期があったり、一緒に旅行に出かけていたりします。

3人は全員恋愛感情で結ばれていた不思議な三角関係だったのかもしれませんね。

3人とも常識にとらわれない、自由な精神を持つ芸術家ですから、確かに「恋愛は2人でするもの」と限らなくてもいいんじゃない?と考えていてもおかしくはありませんよね。

さすがに宝塚でそのような関係性を描くのはハードルが高すぎますので(笑)、『巡礼の年』では、あくまでマリーはジョルジュのことを恋敵のような目で見ています。

『巡礼の年』退団者2人の名演技も必見!

今作で飛龍つかさ(ひりゅう つかさ)さん、音くり寿(おと くりす)さんという花組にとって絶対に欠かせない超実力派スターがご卒業されてしまいます。

飛龍さんはマリーの夫役、音さんはリストのパトロン役です。

マリーのことをさほど大切にもしていなかったくせに、マリーが他の男性を選んだ途端にマリーに固執する勝手な夫。

「あなたの栄光なんて私次第でどうにもなるんだから、私の言うことを聞きなさい」とリストの自由を束縛するパトロン。

花組の芝居力をしっかり底上げしている飛龍さんと音さんだからこそ際立つ人間の傲慢さが見事に表現されていて、ご卒業が本当に残念でなりません。

カウントダウンが始まってしまったお2人の現役姿をしっかり目に焼き付けるためにも、何度でも劇場に通いたいですね。