宝塚歌劇団宙組『オーシャンズ11』、とってもエキサイティングな公演ですね!
爽快感のあるプロットに笑えるアドリブの数々、
そして宙男たちによるスタイリッシュなスーツ姿と、
何度も何度も観たくなる演目です。
さて、『オーシャンズ11』のキャスト発表段階で最も注目を集めていたといっても過言ではないのが、ベネディクト役を演じた桜木みなとなのではないでしょうか。
桜木みなとというと、何でもソツなくこなす優等生的な印象や、育ちの良さそうなおぼっちゃんっぽいキャラクターのイメージがあります。
だからどうしても悪人というよりは「真面目ないい人すぎて悪いヤツに騙されたり、命を奪われたりしてしまう役」を演じていることが多かったように思います。
悪役やクセの強い役が似合う宙組の男役といえば愛月ひかるでした。
『神々の土地』のラスプーチンや『天は赤い河のほとり』のマッティワザ王子、『異人たちのルネサンス』のグイド神父など、愛ちゃんの演じる悪役、黒い役はどれも圧倒的な存在感があり、ヒーローではないものの惹かれてしまうオーラがありました。
それだけに、愛ちゃんが専科へ異動してから、じゃあこれから宙組の悪役っていったい誰が演じるんだろう……とやきもきしていましたが。
桜木みなと(ずんちゃん)の悪役、良いですよ!
敵に回したくない? 都会派のベネディクト
ずんちゃんのベネディクトは、狡猾な頭脳派。
見た目はとっても爽やかな好青年風で、立ち居振る舞いもスマート。
時流を読んでいち早く大胆な決断が下せるキレキレの頭と、何としても成功してやるというガッツで若くして財を成したやり手経営者という雰囲気がすぐに伝わってきます。
観劇前に原作映画を観て予習したのですが、映画版のベネディクトは毎日決まった時刻にきっちり仕事をこなし、末端の従業員まで一人一人顔を覚えているというかなりのワーカホリックで、大悪党というよりむしろ堅物っぽい雰囲気すらあったのですが、ずんベネディクトでは映画版とちょっと似たような生真面目さを感じました。
他人を蹴落とすことも厭わないやり方から敵も多そうですが、一方でそのサクセスストーリーに憧れている人もたくさんいるんだろうなと、ベネディクト陣営の心情にも思いを馳せてしまう魅力がありました。
手段はダーティーであったとしても、とっても仕事熱心なのが伝わってきて、前半では悪者なのについつい応援したくなってしまう場面もありました。
『オーシャンズ11』は再演物なので、過去作品との比較もまた楽しみの一つ。
望海風斗との違い
前回の花組版では今をときめく望海風斗(だいもん)がベネディクト役を演じていました。
改めて映像を観ると両者の役作りの違いが面白かったです。
だいもんベネディクトは本当に濃ゆい!
ソロナンバー『夢を売る男』でのアニメに出てくるようなイカレた高笑いには圧倒されます。
楽しそうにお札をばら撒くシーンは最高!
ドスの効いた脅しに全力の表情作りと、これでもか!という「ザ・悪役」な名演技でした。
一方でずんちゃんのベネディクトは、第一印象が爽やか系なだけに初見の「悪い奴」感はそこまでではありませんが、隠された本性がだんだん暴かれていくさまがよくわかりました。
テスへのやたら長いキス(ずいぶん濃厚でしたよね……笑)で「執念深そうだな……」という感じが伝わってくるのも面白かったです。
最初は冷静キャラを作りつつもダニーほかオーシャンズの面々に翻弄されてイライラが募ってくる様子や、自分に逆らったテスに対する容赦の無さなど、化けの皮の剥がれっぷりがお見事。
見た目の迫力や凄味という部分では確かにだいもんの濃ゆ~~い演技の印象が強いです。
しかし、「実際にいる悪い奴ってこういう感じなのかな」というずんベネディクトのリアリティもまた良かったです。
今回の宙組オーシャンズは、全体的にかなりスマートな雰囲気でした。
ずんちゃんの創り出した都会的でエリートなベネディクト像は、このスタイリッシュな舞台のバランスを成り立たせる上で絶妙だったと思います。
めちゃくちゃ嫌な奴を熱演! シヴァーブリン役で見せた芝居力
前回の博多座公演『黒い瞳』でもずんちゃんは悪役シヴァ―ブリンを演じていました。
同僚にネチネチと嫌味や皮肉を浴びせ、仲間の士気を削ぐネガティブ発言を繰り返します。
そもそも初めから敵と内通しているし、一度自分を振ったヒロインにしつこく粘着、あげくヒロインを監禁!
主人公とヒロインが結ばれそうになるとウソの供述をして主人公をスパイに仕立て上げようと企みます。
そう、このシヴァーブリン、めちゃくちゃ嫌な奴なんです……。
悪役といってもこの役はカリスマ性のあるラスボスではなく、小物っぽい役柄。
何か強い信念があって悪事に手を染めているわけではなく、ただ強者に媚びへつらい、ひたすら自分の利益だけを守ろうとします。
ずんちゃんのシヴァ―ブリンもまた「こんな奴が近くにいたら嫌だな~、でも実際にいそうだなあ」と思わせる役作りでした。
端正な顔立ちを歪ませて浮かべるゲスな笑いが最高!
すがすがしいまでの憎まれ役を演じるずんちゃんは初めて観たので、こんな役もうまくこなせるんだなと新たな一面を発見した気持ちでした。
王子キャラ桜木みなとの新境地、現実的な悪役像
優等生っぽいずんちゃんに悪役が似合うの?と思ったこともありましたが、そのイメージを活かして「本当にこういう人がいそうだな」と感じさせる役作りが魅力的だなと思いました。
第一印象が好青年であるだけに、虎視眈々とチャンスを狙い、必要とあらば他人を裏切ったり蹴落としたりすることも厭わない冷酷な本性が明らかになった時のギャップが大きく、いかにも極悪そうなヴィランとはまた違った意味で印象に残りました。
シヴァ―ブリンに続きベネディクトで新たな一面を見せたずんちゃん、今後演じるキャラクターにも期待が高まります!
ライター:ミナミ