宝塚歌劇団が他の数多ある劇団と異なる、最も特徴的な点といえば、やはり劇団員の全員が女性ということでしょう。
女性でありながら男性を演じる「男役」の作り込まれたカッコよさは、本物の男性とは全く違った魅力がありますよね!
しかしお芝居によっては、男役さんが女役を演じることがしばしばあります。
もちろん男役さんも素顔は女性(しかもとても美しい女性)ですから、女役を演じたら素晴らしいのは当然です。
でも、娘役さんもいるのになぜわざわざ男役さんが女役を演じるの?と疑問に思うとこも……。
そこで今回は、様々な作品のキャスティングから、「男役が演じる女役」の魅力を考えてみました!
海外作品の【憎めないわがままレディ】
海外原作の作品をよく上演する宝塚ですが、そのキャスティングには男役を女役に回すものが多く登場します。
·『風と共に去りぬ』スカーレット·オハラ役
『ME AND MY GIRL』ジャッキー役
『雨に唄えば』リナ·ラモンド役
『GUYS AND DOLLS』アデレイド役
『WEST SIDE STORY』アニータ役
などは、再演を重ねても毎回男役さんが演じているようです。
『風と共に去りぬ』スカーレット·オハラ役
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スカーレットは、結婚しようがなんだろうが自分の愛を主張し続け、南部の敗戦後は自らの手でタラの土地を守り抜きます。レット·バトラーも、まさに力強く生き生きとしたその姿に心奪われたのでしょう。
『ME AND MY GIRL』ジャッキー役
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ジャッキーは、登場した瞬間からとにかくお金と地位を掴みたいことを全面に押し出しており、そのためにビルを手に入れると高らかに宣言します。
婚約しているはずのジェラルドには限りなく塩対応。考えてみれば身も蓋もない言いっぷりですが、女の魅力もなんでも使ってビルに迫る様子はむしろ清々しさすら感じます。
『雨に唄えば』リナ·ラモンド役
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リナは、無声映画のスターでありながらひどい悪声の持ち主で、トーキー映画の時代が来ればかなりピンチという立場です。
しかし、当の本人は自分のステキさを全く疑っておらず、様々に圧をかけてスターで居続ける気マンマン。
ついでにドンのフィアンセになる気マンマン。
キャラクターとしては敵役ですが、どこかぬけていて憎めないポップさがあります。
『GUYS AND DOLLS』アデレイド役
アデレイドは、ギャンブラーのネイサンと婚約したまま14年間も待ちぼうけ。
ブロンドのカールヘアで泣き虫、ショーガール姿もラブリーな彼女ですが、自分で稼げるのに恋した男に惚れ抜いて結婚を持ちかけ続け、最後には達成する姿は男前そのものです。
『WEST SIDE STORY』アニータ役
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アニータは熱い血の流れるラティーノ。
移民として辛い生活をしながらも、夢と自身と誇りを失わない大人の女性です。
彼女の優しさ、強さが魅力的であるからこそ、その誇りを踏みにじる後の流れが引き起こす悲劇が際立って感じられるのでしょう。
これらの役に共通しているのは、時にはわがままとも思えるほどの「自分の生き方」を持った女性だという点、そしてそのわがままさを補ってあまりあるチャーミングさがあるという点です。
「清く正しく美しく」とは言い難い役の絶妙なハミ出し感の表現に、楚々としすぎない男役さんのキャラクター·普段と違うギャップが活かされていたのではないでしょうか。
絶妙な色気をまとう【ミステリアスな淑女】
『CASANOVA』コンデュルメル夫人
男役が演じた女役として記憶に新しい名演といえば、『CASANOVA』で鳳月杏さんが演じたコンデュルメル夫人でしょう!
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夫とのすれ違いに悩み黒魔術に傾倒したコンデュルメル夫人は、エキゾチックな衣装に身を包み、猫たちを侍らせて妖しい部屋に暮らしています。その存在はとてもミステリアスで、軽快な作品の中の香り高いスパイスのようでした。
鳳月さんの長身は、他に登場する女性たちとは一味違うという表現として効果を発揮。男役さんでありながら女役を演じるといういい意味での微妙な違和感が、「簡単には奥が見通せない」というセクシーさを効果的に引き立てていたと思います。
性別を超えた【愛深い人生の達人】
専科や、幹部クラス生徒さんも、男役の方が女役を演じることがしばしばあります。
近年の作品では、『オーム·シャンティ·オーム』で美稀千種さんがオームの母親役を、
『霧深きエルベのほとり』では英真なおきさんが酒場のマダムヴェロニカ役を演じたことなどが印象的です。
これらは、いずれも主人公(例に挙げた2作はたまたまどちらも紅ゆずるさんですが)を深い愛で包み込む役柄です。
舞台の上の役に限らず、豊かな人生経験を積んだ年長の方は、性別を超えた魅力を持っていることが多いと感じます。
女としての美しさやきらびやかさとは別の次元で広がる、海のような包容力を表現するにあたっては、経験豊かな男役さんがぴったりなのかもしれません。
まとめ
こうして男役さんが演じた女役を並べてみると、いずれも「女」という役割やイメージにとらわれない魅力にあふれた役ばかりであることがわかります。
女性だけで構成されている劇団にあっては、娘役さんは一般の女性より「より女性らしく」存在するという形式美を日々追求されます。
美しい娘役さんの姿は本当に花のよう!
男役と娘役という2種類のプロフェッショナルによる引き立て合いこそが宝塚の文化だと思います。
そのような中で、男役さんが女役を演じることは、その形式からあえて外に出た表現を求める演出であるのでしょう。
その役を演じるとき、その役者さんは男役でも女役でもない「女優」に近づくのではないかと思います。
宝塚を観ていながら、その枠に収まらない存在も同時に楽しむことができる……。
男役さんの演じる女役は、そんなおトクな「夢のコラボ」を楽しめる機会なのです!