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上田久美子演出の作品はなぜ面白いのか

4.5
宝塚歌劇団演出家

桜が咲き誇る春、 宝塚歌劇団宙組の別箱公演(TBS 赤坂 ACT シアター) での演目が上田久美子先生の新作『FLYING SAPA-フライグ サパー』に決定いたしました。

主演は、真風涼帆さん、そして星風まどかさん。

宝塚歌劇団は、その中にいる全てのタカラジェンヌが、人生の青春すべて宝塚に捧げてくれている尊い存在です。

しかしその中でもとりわけ、「このジェンヌさんが出るから観に行きたい!」と思う贔屓のような存在がいる人は多いのではないでしょうか。

現に、私も、好きな方が出ている舞台はそれだけで踊りだしたくなるほど嬉しくなります。

そしてさらに、その舞台の物語が自分に刺さるものだと余計に嬉しくなります。

つまりは、「この人が演出家だから観に行きたい!」までプラスされた作品は最高に楽しくなります。

人それぞれの価情観があるので一概には言えませんが、私にとって上田久美子先生はそう思わせてくれる演出家の1人です。

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宝塚歌劇団演出家・上田久美子さんとは

上田久美子先生は2013年の月組バウホール公演『月雲の皇子』で演出家デビューした宝塚歌劇団の座付演出家です。

上田先生のオリジナル演目はどれも、「こんなにも素敵な物語を構成できる方がいらっしゃるのか」と胸打たれる世界観を私たちに惜しみなく披露してくださいます。

『星逢一夜』や『神々の土地』どれも思い入れ深い作品です。

再演の『霧深きエルベのほとり』も素晴らしかったです。観ていて涙が止まらなくなりました。

上田久美子演出の作品はなぜ面白いのか

さてはて、本題です。なぜ、上田先生の作品は面白いのか。

私なりに少し考えさせていただきました。

まず、世界観や細かな設定、出てくるキャラクターの魅力はもちろんなのですが、そもそもの話、「無駄な説明をできるだけ省いてくれている」ことが大きいのだと思います。

物語というのは、展開が分からなければ観ている側を置いてけぼりにしてしまいます。

ですが、あまりにも役の方々のセリフで状況や本質の説明をされると、物語に没頭できなかったり、眠かったり、つまりは「つまらないな」と感じてしまう要因になってしまうと思います。

上田先生の物語には、「その説明いる?」という瞬間がありません。

序盤に世界観をざっくりと私たちの頭に叩き込ませたら、あとは本当にお話が物語として進んでいくのです。

説明を省くって、本当に難しいことだと思います。

物語というのは観ている相手に話が伝わらないと元も子もないからです。

上田先生は説明をカットする匙加減が絶妙にうまいんですね。

また、登場人物の行動や物語の展開に違和感がないことも大きいのだと思います。

「この人がこんなことする?いきなりなんで?」という違和感がないのです。

「この人物ならこう動くだろう」「そりゃこういう展開になるわ」と理解できるのです。

(ここでいう理解は、物語の先が読めるのではなく、 私たちが反発せずに受け入れることができる展開という意味合いが大きいです)

キャラクターが生き生きとしていて、本当にその登場人物たちのことが好きになってしまいます。

これってすごいことだなと感心ばかりしてしまいます。

さらには、上田先生、 あまり都合のいい展開というものを描きません

そこがまた美しく、 儚く、私たちの心に余韻というものをもたらせてくれるのだと思います。

舞台は形に残らない一瞬の儚いもの、それにリンクするかのような、哀愁漂う作品の多い上田先生。

だからこそ、『BADDY』には度肝を抜かれました。

あの上田先生のショー作品、「月?大悪党?ピースフルプラネット???」観る前の私の頭の中はハテナマークでいっぱいになりました。

あらすじを読めば読むほどどんな作品か分からなくなっていくのは初めてのことでした。

けれど、観劇後は、まるで譫言のように「もう一回観たい」と咳くことしかできませんでした。

「わ、私は宝塚のショーを観たのかしら???」と頭が混乱し、そして興奮していたのです。

BADDYにハマったジェンヌさんも多く、 数回観に行った方々もいらっしゃいましたよね。

さらに先日、 WOWOW で《すーさん、美弥さん、トシさん》といった月組退団者3名が BADDYを副音声解説してくれる放送があったのですが、「ショーなのに台本がある!」と驚いたことを教えてくださいました。

確かに、BADDYはめちゃくちゃ物語でした。

メッセージ性が強くて、けれどきちんとショーで。

「ここがああで、そこがそうだった」と盛り上がる3人。

こんなにもにぎやかな副音声は初めてだなと圧倒されるほどの情報量に、 演じられた方たちにもインパクトと思い入れの強い作品なのだと感じ、嬉しくなりました。

さてはて、上田先生の作品をまだ観たことがないという方には、 このまま『BADDY』をおススメしたいのですが、BADDYは独特を独走するような唯一無二の作品過ぎるため、今回は『金色の砂漠』をおススメさせていただきたいと思います。
(和希そらさんも金色の砂漠が大好きだとか)

上田久美子演出「金色の砂漠」

本作は、花組トップ明日海りおさんが主演を務め、なおかつ相手役の花乃まりあさんの退団公演でした。

「どんな作品なのかしら」と、そわそわしていると、あの美しき明日海さん、まさかの奴隷役です。

当時花組2番手の芹香斗亜さんも、ダンディーな役の似合う瀬戸かずやさんも奴隷です。

そして、 これはただの恋物語ではなく、「過去と誇りと人生をかけ、盛大に拗れた男女の恋の話」です。

なかなか癖のある主人公とヒロインですが、衣装も舞台も細部にわたって美しく、ロマンあふれる作品だということは間違いないです。

主演2人だけではなく、きちんと他の登場人物が魅力的なのもポイントです。

話の中身も歌も素敵です。

しかも、日本物のショー『雪華抄』とセットのお芝居だったため、金色の砂漠の設定のままデュエットダンス等があり、その辺も込みで楽しめるのではないかと思います。

タカラジェンヌ ✕ 演出家 ✕ 衣装 = 宝塚の魅力

タカラジェンヌさんたちが素敵なことはもちろんのことながら、 演出家さんや衣装さんも素敵な方が多い宝塚。

ぜひ、みなさんも「この人の物語が好き」であったり「この人のデザインする衣装が好き」といった観点で、より深く宝塚の世界に没頭していただけたらと思います。

兎にも角にも、宙組の別箱楽しみですね!