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星組『眩耀の谷』Blu-ray鑑賞レポートその2

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先日の記事「星組『眩耀の谷』Blu-ray鑑賞レポート・その1」からの続きを書かせていただきますね〜。
「その1」は下のページをご覧ください。

その晩礼真は、舞姫姿の瞳花と礼の謎の男が出てくる不思議な夢を見ます。

目覚めた礼真の脳裏に浮かぶのは、「王に忠義を」と説く父(輝咲玲央さん)の言葉と、「子は母の命と同じ」と自分を慈しむ母の姿。戸惑いながらも礼真は、とにかく子を想う瞳花の願いだけは真実だと思い定めます。

一方周国では、なかなか進まない谷の探索に宣王が怒りの様子。

将軍は、自らが出向いて兵を率いると約束します。

この後の愛月さんの銀橋ソロは圧巻の迫力です! 

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冷たく歪んだ表情も印象的で、大げさな表現を用いずともにじむ凄味に宙組で培われた大人の強さを感じます。そして将軍は、疑惑の払拭のため、汶族の血を引く子(瞳花との子)を殺める決断をするのでした。

汶族の地では、谷から来た汶族の姉弟アルマ(夢妃杏瑠さん)とテイジ(天飛華音さん)が周の兵士に囚われてしまいます。

探索が進まないことにしびれを切らした管武将軍の命により、汶族の民を拷問し眩耀の谷の在り処を探ることにしたのです。

礼真は、2人が囚われたことと瞳花の無事を伝えに汶族の地に向かいます。

汶族の若者カイラとクリチェが切りかかりますが、礼真は刀を抜きません。

「周国にも、そなたたちと争いたくない人間がいることを知らせるため!」

礼真の若さ優しさ苦悩が表れた素晴らしい演出であるとともに、刀の代わりに扇を用いて立ち回る絵面の美しさにも心打たれました……!

拷問の策をやめるよう進言すべく管武将軍に拝謁する礼真ですが、将軍の答えは冷たいものでした。迫力と凄味はそのままでありながら、正義の勇将に見えた砦での姿と、権力と利のために策を弄する現在の姿のギャップが鮮明。

さすが数々の難役をものにしていらした愛月さんです!

将軍に退けられた礼真は、ブンゾクの民の言葉が正しかったことに気づき、彼らに寄り添うことを決めます。

思い出したのは「己の信念を貫け」という父の言葉。都の父に別れを告げる文を書くと、囚われたアルマやテイジたちを助けに牢へと向かったのでした。

立ち去る前に部下の慶梁と百央に最後の言葉をかけますが、2人は礼真の様子が常と違うことに気づきます。

最後に残った慶梁のおやおや?という悪い顔がたまりません。
さすがお顔が芸術品・天寿光希サマ。

そのような悪い顔など知らず、礼真は牢へと向かいブンゾクの民たちを逃がそうとします。そしてそこで、テイジを刺した衛兵を殺してしまうのです。

駆け寄って生きた衛兵たちと戦いますが、多勢に無勢。絶体絶命かと思われたところに現れたのは百央! 礼真を心配し後をつけてきたのでした。

恩返しにと礼真に加勢した百央は、戦いの末衛兵に衛兵に斬り殺されてしまいます。倒れる直前、声なく「礼真さま」と動く唇を見て涙が……。

先ほどまで仲間だった者を手にかけてしまったことにショックを受ける礼真。

ここで一節のみ歌う「背負わされた己の道 立ち向かっていくだけ」という歌に、心優しいだけの青い若者ではいられないという礼真の苦悩と覚悟が色濃く見えます。

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牢を離れた礼真は、瞳花を谷へ帰すべく谷の入口である巨木の前へ連れていきます。そこへ再び現れた謎の男。

彼は、自分は亡くなった先代の汶族の王マランであること、そしてなんと礼真の母が汶族の王家の末裔であることを告げます。

マランは礼真に汶族の王となり人々を率いて守るよう求められ戸惑う礼真。しかし、周と汶族の血を結ぶ者として、そして命を守る者として立ち上がることを決めるのです。

一方周国の陣営では、礼真が父に宛てた手紙を盗み読んだ慶梁が「汶族と密通している」と将軍に告げ口。代わりに褒美を得てホクホクの慶梁は、礼真への忠義を貫いて死んだ百央の姿とは対照的で印象深いです。
きれいなお顔で汚いことをする天寿光希サマ、たまりません……(2回目)。

礼真と瞳花は谷へ戻ります。周国の多勢に到底敵わないと嘆く者や、この地を守って命果てるという者、絶望する汶族の民の中で瞳花が唐突に舞を始めます。言葉には表せない感情のほとばしりでした。瞳花に続いて他の民たちも舞や歌を始める熱量は圧巻。体の動きである踊りを観ているのではなく、心の動きを観ているのだと感じました……!

瞳花に促され、礼真は自分が王の末裔であることを告げます。そして汶族の一員として告げたのは、眩耀の谷を離れ逃げ延びることでした。聖地を守る戦いよりも命を守る流浪を選んだのです。人々は長い列をなし、新天地を目指して歌いながら歩いていきます。

虐げられ危機に立つ弱者に新たなリーダーが現れる、という構図は宝塚の作品で無数にみられます。

しかしいまだかつて、これほど「バエない」クライマックスがあったでしょうか。勇ましい戦いも、名誉の死も、勝利の栄光もなし。それでも

「後の世につなぎ残すのだ 天より授かりしこの命たち」

と歌いながら進む人々は、そして戦わないことを選んだ礼真は、とても強く大きく見えました。

そして春崇が現れ、眩耀の谷が周国の手に渡ったこと、汶族が新たな地で新たな国を築いたことを語ります。このとき春崇は、今までの場面で着ていたきらびやかな衣装ではなく、汶族の民族衣装を着ていました。

「あ、今まで正体不明だったけど汶族の人だったんだ」などと思っているとどうでしょう。

実は彼女は、新天地で礼真と瞳花との間に生まれた娘だったのです! なんと美しい設定! 謝先生やってくれますな!!

最後の場面は、銀橋で語りを終える春崇と、舞台上で礼真と瞳花が寄り添う姿。礼真の表情は精悍で、言葉はなくとも王として遂げた変化が見て取れます。

そして見渡した先には、新たな汶族の国とそこで暮らす人々がいるのでしょう。

華やかではないけれど愛と慈しみに溢れた、本当に本当に美しい幕切れでした。

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門出の贈り物のような作品

 印象的な場面や台詞は多くありますが、その中のひとつがマラン王の

「王に力は不要。必要なのは器だ」

王という立場は、やはりトップスターというイメージに重なります。

今の礼さんの技量を持ってすれば、雄々しい英雄や艷やかな色男といったいわゆる「トップ男役らしい」役を演じることも容易いでしょう。

しかしそうではなく、若く優しく素直で明るい、礼さんその人のような魅力の主人公を描いた作品がお披露目公演であることに、愛の深さを感じます(愛を感じがち)。

また仲間と共に新しい地を目指すクライマックスも、新しい組の門出にぴったりです。

いやもちろん「王」たる力も十二分にお持ちの礼さんですが、大きな器に組子たちの個性や元気をたっぷり入れた、さらに素敵な新生星組をつくっていかれることと改めて確信しました。

この作品をどうか、東京公演で生で観られる日が来ますように。
待ち遠しいです! 

ライター:松下梨花子