コロナウイルスがまたも猛威を振るっている世情。
その煽りを受けて世の中のどこでも宝塚歌劇団が上演されていないという哀しい日がやってきてしまいました…。
大劇場でもその哀しさ・ショックは勿論ですが、小劇場公演ともなると公演期間が短いため延期ではなく中止となってしまうのが尚のこと辛いもの。
数多の悔しさを感じた中でも今回は『カルト・ワイン』について語っていこうと思います。
カルトワインについて
得てして小説や舞台作品で取られるフラッシュフォワード。
終盤の1シーンを最初に見せてからそこにたどり着くまでを描くという手法というのは皆さんご存知のことかと思いますが、終盤までの過程がドラマティックでなければ観客を惹き付けることが難しい手法。
何故ならば観客はラストを知っているからこそ、通常のストーリーよりもドラマティックでなければならないわけで…。
今作は21世紀初頭のニューヨークが舞台ですが、大劇場ではないためそこまで華やかな舞台美術が準備できませんし輪っかドレスやタキシード等の所謂派手で宝塚感のあるお衣装も出てきません。
つまりは脚本・演出にかかっているというわけです。
演出家・栗田優香
栗田優香先生と言えば2014年に入団され、和希そらさん主演『夢千鳥』で演出家デビューされたお方。
コロナ渦でのデビューというわけでこれまでにない様々な困難がある中でのデビューであったにも関わらず高い評価を博しておられたのは皆さんの記憶にも新しいですよね。
満を持しての2作品目となった『カルト・ワイン』。
初日の幕が開いて口々に皆さんがしていたのは「とにかく面白い!」というシンプルな感想。
実際に観劇した身としてもまずお伝えしたいのは全く同じで「とにかく面白い!」という一点に尽きます…!
フラッシュフォワードが採用されているからこそきっとこう来るんだろうな…という予想はありましたし、正直その通りにストーリーは進んでいき、だからこそ感じる「コレコレ!」という王道感に満足感があったのも確かです。
そこに更に要所要所に組み込まれる人間くさい描写やコミカルさに惹き付けられていったんです…。
桜木みなとさんの演じるシエロ・アスールとカミロ・ブランコ。
同一人物なはずなのですが、シエロを知る人の前でのカミロとカミロしか知らない人の前でのカミロがまた違って見えることに思わず鳥肌が立ってしまったのも私だけではないですよね。
また、カミロを演じているシエロの慣れっぷりも徐々に進化していっていることも素人が他者を演じているということに他ならず、そんな演技のできる桜木さんの力量にも驚きを隠せませんでした。
個人的なお気に入りのシーンはやはりグランピー・ガイズです。
同じお気持ちの方も多いですよね?!
今作の中でも特にコミカル色が強いシーンかと思うのですが、ここがストーリーの最高潮にポップなシーンでここからシエロのカミロとしての人生は急展開を迎えるという意味でも印象深いシーンかと思います。
シエロがカミロとして生きていることを最も楽しんでいた時期とも言えるのかもしれません。
本当に本当に楽しかった作品ではあるのですが、これまでの公演期間中に中止となった作品の中でも珍しく円盤化が難しいと言われています。
原因は公演期間がかなり短く、収録されていないというのが最も有力と言われいる説です。
劇団資料としての映像とスカステの収録映像だけでどうにか円盤化できないものかとも個人的には考えてはしまうのですが、現状難しいかと思いますので気になる皆さんは是非ともパンフレットや舞台写真をキャトルレーヴにてお求めくださいませ…!!
そしていつか再演を…と願うばかりです。