タカラジェンヌといえば、どなたをとっても美しく光り輝くすてきな舞台人です。
その中でもひときわ輝きを放つのが、各組のトップスターさんです。
70人近い組子を引き連れて真ん中に立つ姿には、まさに「トップ」の名にふさわしいオーラがあります。
そんなトップスターさんにも、初舞台や初ゼリフ初めてのソロパートがあったと考えると、なんだか感慨深いもの……。
特に、スター街道の入り口とも言えるバウホール初主演は、ジェンヌさんにとってもファンにとっても格別な思い出です。
そこで、ここではトップスターさんのバウホール初単独主演作品から、そのスターさんの魅力に迫っていきたいと思います!
紅ゆずる『メイちゃんの執事~私の命に代えてお守りします!~』
星組トップスター紅ゆずるさんの初主演作品は、2011年『メイちゃんの執事』。
マーガレットに連載されていた少女漫画が原作で、ドラマ化されたこともある人気作品です。
関西人ならではの笑いのセンスあふれる楽しいキャラクターが魅力の紅ゆずるさんですが、この作品中の役どころは一味違います。
紅さんが演じるのは、スーパー万能執事の柴田理人(りひと)。
常に穏やかな微笑みを浮かべ、お掃除からヘリコプターの操縦までこなすカリスマです。
ひょんなことから自分が財閥令嬢であると発覚したヒロイン、東雲メイ(音波みのり)に仕え、身の回りの世話やエスコートを行います。
圧倒的な美しさ
この作品から伝わる紅ゆずるさんの素晴らしさはたくさんありますが、なんといっても初めに飛び込んでくるのは神がかり的なルックスです。
まず冒頭、タキシード姿の紅ゆずるさんが舞台中央に現れたときの等身バランスに衝撃を受けることは間違いありません。
「この人は本当に少女漫画から抜け出てきたのではなかろうか?」と思う脚の長さ!
また、理人の手についてメイが「なが-い指をした綺麗な手」と表現する場面や、切れ長で美しい目元をスクリーンに大写しにする演出、長い腕を活かした絶妙なバックハグなどもあり、紅さんのビジュアルの素晴らしさが至るところで活かされています。
あんな見目麗しい執事に「命に代えてお守りします」なんて言われた日には、メイでなくても恋に落ちることは確実。
もう100%。半端ではない説得力です。
漫画原作の作品の難しさとして、2時間半の舞台に収めるためにストーリーを薄くしなければならないという点があります。
正直に言ってこの作品でもそういった難しさは随所に感じますが、それらをねじ伏せて物語を成立させる紅ゆずるさんの「美ジュアル」パワーに圧倒されました……!
豊かな感情表現
お芝居前半、スーパー執事の理人(紅ゆずる)はどんなときでも落ち着いていて、表に現れる感情の動きは多くありません。
しかし、細かな表情や仕草のなかに感情の揺れが表現され、メイへの想いが少しずつ高まっていったことがよく伝わってきました。
また後半、悪夢の中で踊るシーンでは、穏やかな微笑みに隠れた苦悶の表情があらわになりドキリとさせられます。
ステージ上に幕があり、その向こうにいるシルエットしか見えないダンサーと、幕の前にいる紅さんが共に踊るという幻想的な演出でした。
影となったダンサーの力強い動きと、紅ゆずるさんの力強い表情が合わさり、見ている方も飲み込まれるような不思議な感覚になりました。
ビジュアルのみならず、紅ゆずるさんの豊かなお芝居の表現も作品全体を輝かせていたと思います。
「笑い」のカリスマ性
忘れてはならないのは、温かい笑いを生み出す紅ゆずるさん独特の空気感とセンスです。
この作品は全体に笑いを誘う仕掛けが多いものでしたが、紅ゆずるさん演じる理人はあまりテンションの高いお役ではありませんでした。
しかし、演技のタイミングや周囲への反応がなんとも絶妙!
自然と周りのお芝居のおかしみを盛り上げているのがよくわかりました。
自身が笑いを取る役どころでなくても、専科さんから下級生に至るまでが嫌味なくコミカルな雰囲気に包まれていたのは、場の空気全体を紅ゆずるさんが作り上げていたからに他ならないでしょう。
ハッピーエンドの王様!
研究科10年目で、バウホール初主演は決して早い学年ではありません。
そのような上級生になってからの作品であったからこそ、紅ゆずるさんの持つ美しさや、磨いた演技力、そして他の人にはないカリスマ性が存分に発揮されたていたのだと思います。
『メイちゃんの執事』は、登場人物たちそれぞれが、幸せを胸に全員でテーマソングを歌う大団円で幕を閉じます。
それから8年、現在上演中の退団公演『GOD OF STARS~食聖~』も、ラストは組子全員が舞台で歌う超ハッピーエンドです。
芸を磨き続けトップになった紅さんですが、この頃から美しく細やか、そして大団円のよく似合う魅力満載のスターさんであったことがよくわかる作品でした!