タカラジェンヌといえば、どなたをとっても美しく光り輝くすてきな舞台人。
その中でもひときわ輝きを放つのが、各組のトップスターさんです。
70人近い組子を引き連れて真ん中に立つ姿には、まさに「トップ」の名にふさわしいオーラがあります。
そんなトップスターさんにも、初舞台や初ゼリフ、初めてのソロパートがあったと考えると、なんだか感慨深いもの……。
特に、スター街道の入り口とも言えるバウホール初主演は、ジェンヌさんにとってもファンにとっても格別な思い出です。
そこで、ここでは各組トップスターさんのバウ初単独主演作品から、そのスターさんの魅力に迫っていきたいと思います!
今回は、花組新トップに就任したばかりの柚香光さんです。
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柚香光『ノクターン―遠い夏の日の記憶―』
花組新トップスター柚香光さんの初主演作品は、2014年『ノクターン―遠い夏の日の記憶―』。ツルゲーネフの名著「初恋」を、原田諒先生演出でミュージカル化した作品です。
キャスト一覧
https://kageki.hankyu.co.jp/revue/2014/nocturne/cast.html
舞台はロシア、モスクワ郊外の避暑地です。
柚香光さん演じるウラジミールは公爵家の令息で、毎年夏にはここへやってきます。
厳格な母オリガ(桜一花)、自由人で色男の父ピョートル(瀬戸かずや)などと共に、いつもどおりの夏を過ごすはずだったウラジミール。
しかし森で美しい年上の女性ジナイーダ(華耀きらり)に出会い心惹かれます。
素直になれない気持ちと、思いもかけない恋敵によって翻弄される、ひと夏の若くて切ない初恋の物語です。
ガラス細工のような瞳
ウラジミールは繊細で寂しがりな、それでいて若いエネルギーに溢れ恋への憧れを心に燃やした青年。
柚香さんはこういった系統の役をしばしば演じていますが、特に『ノクターン』のウラジミールは絶品でした。
まず魅力的なのが、まっすぐな瞳の強さ!
父への憧れやジナイーダへの恋心を語る場面では、目がすごい勢いでキラキラしています。
一点も曇らない眼差しで、純粋さや若さの輝き全開です。
しかし一度足元が揺らぐと、純粋さと背中合わせの脆さが姿を見せます。
父の秘密が信じられず怒鳴り散らしてみたり、ジナイーダからの拒絶にショックを受けて危うく決闘を申し込みそうになってみたりと、その動揺ぶりは半端なものではありません。
先程までと打って変わって、眼差しの揺れること揺れること……!
光る若さとそれゆえの危うさを見事に表現する柚香さんの瞳に、こちらの目も釘付けになります。
心を表現したダンス
柚香光さんといえばダンサーという印象をお持ちのファンはとても多いはず。
このお芝居でも、柚香さんのダンスの力が随所に活かされています。
特に印象的なのが、様々な表情を見せるデュエットダンスです。
初めてジナイーダの家を訪れた場面では、「私と踊ったらナイフを返してあげる」と挑発されタンゴを踊ります。
思いがけず切れ味鋭いダンスに、ジナイーダは同様を隠せません。
次第に2人の踊りは響き合い、力強さを増していきます。
若さとプライドからくる激しさと、無視できない共鳴への戸惑いを見事に表現したキレのあるタンゴでした!
また、ピアノを引く彼女のもとを訪ねた場面では、作品名でもあるショパンの「ノクターン」に乗せて再び手を取り合います。
タンゴとは違い、やわらかく流れるような動きは優雅そのもの。
初恋のはじまりが優しく表現されています。
ダンス技術の高さはもちろんですが、それを使ってお芝居の中身を伝えられる表現力に魅せられました。
日本人離れしたルックス
宝塚メイクをすれば、基本的にどんな方も外国人のようなルックスを演出することができます。
しかし、柚香さんのお顔立ちは宝塚のなかでも稀に見る「異国系統」だと言っていいでしょう。
シャープな吊り目と通った鼻筋は一度見たら忘れられない鋭さがあり、横顔はまるで美しい彫刻のようです。
冒頭の回顧シーンでは数十年後の姿(それはそれで素晴らしい)でしたが、青春時代の白いお衣装で登場したときは「ロシア貴族の若者、完成形!」という説得力でした……。
笑顔はもちろん、思い悩む姿も、声を荒らげるお顔も、涙を流すところも美しい、ヨーロッパの芸術品のような麗しさを持ったスターさんです。
危うくも美しい花オトコ
5組の中でも特に色男だと言われる花組男役。一口に「色男」といってもその魅力は様々ですが、壊れそうなギリギリで放たれる揺れる瞳の輝き、かと思えば力強いダンス。
こうした目を離せない色気をもつ柚香さんは、まさに花組らしい色男といえるでしょう。
「ダンスの花組」に相応しい踏力と、真摯なお芝居の力、そして何より花オトコらしい色気と美しささという柚香さんの魅力がよく分かる作品でした!