舞台に姿は見えずとも、宝塚の魅力の大きな部分を作り上げているのが宝塚歌劇団の座付き演出家の先生達。
スターさんに負けず劣らず個性的な演出家の皆さまの魅力について、作品を通して考えたいと思います!
今回取り上げるのは、小柳奈穂子先生です。
1999年に入団。
2002年の『SLAP STICK』にてバウホールデビュー
2011年『めぐり会いは再び―My only shinin’ star―』にて大劇場デビューを果たされました。
幅広いエンタメに造詣が深いことで知られる小柳先生。
他ジャンルの舞台や映画はもちろんのこと、小説、漫画やアニメやアイドル、いわゆる「乙女ゲーム」など様々なコンテンツからアイデアを取り入れた抜群に楽しい作品づくりが魅力です。
原作への熱いリスペクト
小柳先生といえば漫画原作の名手、というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。
バウ2作目の『アメリカン·パイ』は萩尾望都さんの同名作が原作。
その後も様々な漫画をもとにした作品を演出されてきました。
『ルパン三世―王妃の首飾りを追え!―』では、誰もが知っているルパンの軽妙なイメージをそのままに、フランス革命の時代という宝塚らしい要素を織り交ぜ新しい楽しさで注目を浴びました。
また、『はいからさんが通る』、『天は赤い河のほとり』といった少女漫画原作の作品では、圧倒的なビジュアルの再現とキャラクターを際立たせる演出が見事。
従来の宝塚ファンはもちろん、原作読者も虜にしファン層を広げました。
そして実は、小柳先生が得意としているのは漫画原作作品だけではありません。
邦画のハリウッドリメイク版を逆輸入した『Shall we ダンス?』では、普通の人生の中にあるきらめきを優しくも華やかに描きました。
日活映画原作の『幕末太陽傳』は、人気トップコンビ早霧せいな&咲妃みゆを笑顔で送り出す小気味良い作品に。
そしてインド映画にも挑戦!
『オーム·シャンティ·オーム-恋する輪廻-』では、ボリウッドの空気と宝塚のキラキラの混ざったまさに「マサラ」な世界観で会場を満たしました。
かと思えばチェーホフの名作『かもめ』を上演し、ロシア文学らしい閉塞感と重厚感を見事に表現。
2013年台湾公演には、台湾の人気小説を下敷きとした『怪盗楚留香(そりゅうこう)外伝-花盗人(はなぬすびと)-』を創作します。
台湾で愛されるキャラクターを愛されるままに描いたことはもちろん、歌声が重要となる女性役に下級生男役の礼真琴さんを抜擢するなど、作品を活かす適材適所の配役にも余念がありません。
どんな作品でも優れたエンタテインメントに仕上げることができるのは、原作者さんをも唸らせる的確な再現力のなせる技。
宝塚らしさと新しいものへのリスペクトの加減が絶妙です。
愛に満ちた当て書き
小柳先生の魅力は、もちろんオリジナル作品でも大いに発揮されています。
特に際立つのは、スターさん本人の持ち味を引き出す当て書きの力です。
人柄から設定、全体の世界観、そして役名に至るまで、ファンが
「そう!このスターさんって、この組ってこういうイメージだよね!!」
と激しく同意し握手を求めたくなるようなぴったり感があります。
よくわかるのが、2010年宙組の日本青年館公演『シャングリラ―水之城―』と、2019年星組公演『GOD OF STARS―食聖―』の対比です。
この2作はどちらも香港映画からインスピレーションを受けてつくったとのこと。
また「記憶を失くした主人公が仲間と出会い心を通わせる」という設定も共通。しかしそのテンションは日本とブラジルほどかけ離れています。
『シャングリラ』主演は、大空祐飛さんと野々すみ花さん。核戦争で荒れ果てた未来を描いたディストピアものの作品です。
全体は暗い印象ながらオリエンタルな魅力と不思議な懐かしさもあり、なんとも言えず大空さんのシックな空気にぴったり。
底抜けハッピーではないけれど、それぞれに大切な人やものがあり自分の想いを胸に歩むというラストも、大人の強さを持った2010宙組によく合っていました。
一方『GOD OF STARS』は紅ゆずるさんと綺咲愛里さんの退団公演で、現代シンガポールを舞台としたとにかく明るいコメディ。
「オレ様野郎の天才料理人(実は魔界から落ちてきた魔物)の主人公」と、「料理が殺人的にヘタでカンフーが超強いヒロイン」という設定だけでもパンチが圧倒的です。
ラストシーンには組子全員が登場し、みんな幸せスーパー大団円!
紅さんはプレお披露目公演『オーム·シャンティ·オーム』も小柳先生の作品でしたが、その劇中の「ハッピーじゃなければエンドじゃない!」という台詞が、時を経て見事に証明されたようでした。
笑いながらも目頭が熱くなったものです……。
星組らしいエネルギーと、唯一無二の「オモロさ」を持ったスター·紅ゆずるの座組でしか絶対にできないと断言できる作品でした。
共通するモチーフがあったとしても、中心となるスターさんや組全体の空気に合わせて作品の色を自在に変える書きぶりに拍手喝采です!
座付き演出家の鑑!
宝塚歌劇はかなり独特な文化ですが、それは決して外と切り離されているという意味ではありません。
代名詞が『ベルサイユのばら』であることを考えても、様々な文化を貪欲に取り込む小柳先生の作品づくりは宝塚の源流だといえるでしょう。
また、組の存在やスター制度という特殊な仕組みは、その組や生徒さん独自の魅力が見えてこそのもの。
本領を発揮させるためには、魅力的な当て書き作品が欠かせません。
広い世界をリスペクトしながら取り入れつつ、丁寧な当て書きを欠かさない。
愛と職人技で宝塚を盛り上げる小柳先生はまさに「座付き演出家の鑑」です!
(ライター:松下梨花子)
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