噂に聞いたことがある、宝塚歌劇団の各組に1人ずついらっしゃるという、“お父ちゃん”という存在。
でも正直、「一体なにをされている方なの?」という感覚だった筆者。
ある日、自宅から徒歩3分の本屋にて、退屈しのぎの本探しをしていると、手に取ってくれと言わんばかりにこちらを向いていた一冊が、この『ヅカメン!お父ちゃんたちの宝塚』でした。これはあの、噂の“お父ちゃん”のお話か…!と、購入を即決したのですが…。
読み進めるほどに深い、宝塚歌劇団の真骨頂
結論から申し上げると、これは単なる“お父ちゃん”の物語ではありません。
単純に、宝塚歌劇団でいうところの“お父ちゃん”の話だけではない、という意も含みますが、当然それだけでもないのです。
改めて、宝塚歌劇団というものの素晴らしさ、その舞台に立つタカラジェンヌという名の乙女たちの凄さ、その舞台を支える大勢のスタッフの存在、さらにはタカラジェンヌとなりゆく娘を陰ながら応援し続ける親御さんらの大きな懐を、しかと魅せていただける、言うなれば宝塚歌劇団という存在そのもの。
フィクションではあるのですが、我々の知る由もなかった、“向こう側”の世界をほんの少し覗き見るような感覚。
そして、覗き見たことにより、より一層その尊さを目の当たりにするのです。
宝塚歌劇を愛するファンの皆さんにぜひご紹介したい、そんな一冊に出会ったので、この場をお借りして紹介させていただくことにいたします。
ちなみに本書は、2014年に単行本として出版されたのが最初のようですが、今年文庫化されており、お手頃&お手軽に変身しているので、ぜひお手に取ってみてくださいませ。(作者でも回し者でもありませんが(笑))
見事な構成に、あっぱれ!
物語は7話で構成される。
1話1話に、花・月・雪・星・宙・専科の組名を含むタイトルがついているところもオシャレ&粋な計らい。
全7話うちの1話は、今回の文庫化に際して新たに書き下ろされたものだそう。
なるほど、これは単行本読者も手に取らずにはいられない!
1話〜6話までは各話に1人、計6人のお父ちゃんたちが主人公となっており、タイトル通りの“お父ちゃん”に、
やがてタカラジェンヌへと成長を遂げる娘のパパ、
宝塚音楽学校に通う妹を持つお兄さん、
新卒で宝塚歌劇団の大道具さんに配属された青年、
組のプロデューサー、
演出家という面々である。
1つとして経験したことのない立場と、そこから見える宝塚歌劇団やタカラジェンヌたちが、非常に興味深い。
お父ちゃんたちがそれぞれの立場で成長していくのと同時に、ある少女が宝塚音楽学校に合格し、同期生たちと初舞台を踏む。
少女は幼少期から描かれているため、応援したくなる気持ちも一入である。
やがて、ショーで1場面任される若手スターにまで成長したかと思えば、バウホール主演に選ばれる。
その一方で、ライバルスターが涙をのむのだ。
だがそれは当然、醜い争いなんかではない。
むしろそのライバルスターは、同じスクールで音楽学校を目指した旧友。
年齢は同じだが、先に音楽学校に合格した、2年先輩だ。
おそらく2人は未来のトップスターだろう。
また、おじさん&おじいさん役常連の渋い上級生男役さんの存在感が鮮烈。
やっぱりタカラジェンヌって、(良い意味で)只者じゃあないな、と思わされる。
6人のお父ちゃんたちは皆一様に、始まりは「男が宝塚なんて…」とネガティブなのだが、本作品では名脇役と化しているタカラジェンヌたちに感化されることで、自身らも変わっていく。
それはもう、立派に。
コロナなんかに負けないで!
運命って、あると思いますか?
筆者は、あると思います。
良い事も、悪い事も、全部その先の進むべき道へとつながっている、そう思っています。
「どうして僕が」「なんで俺が」と言っていた彼らが、宝塚の世界で生きることも。
少女たちがタカラジェンヌとして生き抜くことも。
少女とともに4度の宝塚受験に臨んだものの、最後まで受からなかった友人の未来も。
全部、進むべき道だったのだと思います。
けれどそれは、努力や強い気持ちがあってこそ。
血の滲むような努力をひたむきに続けるタカラジェンヌたちには、どんなに茨の道だったとしても、絶対に素晴らしい未来が待っているのだろうと、このコロナ禍、歌劇団も苦渋の中、思うのでした。
やはり、応援や尊敬の気持ちは高まるばかりです!
著者:有田だりあ
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